DataRobot導入事例「ヤマトホールディングス株式会社」~ヤマトグループのどこにいってもDataRobotがある世界を作りたい~

日本の宅配業界最大手、ヤマト運輸を中核とする物流事業会社を傘下に持つヤマトホールディングス(以下「ヤマトHD」)は、DXの実現に向けたビッグデータの活用を目的にDataRobotを導入した。DataRobotやNSSOLに対する評価はどうだったのか。
ヤマトHDの奥住氏(社長室 デジタルイノベーション担当 シニアマネージャー)、中田氏(社長室 デジタルイノベーション担当 アシスタントマネージャー)に聞いた。
聞き手

ソリューション企画・コンサルティングセンター

産業・流通ソリューション事業本部 流通・サービスソリューション事業部 営業第三部

ITインフラソリューション事業本部 営業本部 デジタルプラットフォーム営業部 デジタルイノベーション営業推進グループ
DataRobotはヤマトが考える“未見の敵”に対処するために導入した
グローバル全体で見ても、流通・サービス業のお客様の機械学習の業務適用はまだまだこれからといった印象を持っています。そんな中ヤマトHD様はいち早くDataRobotに注目され、導入を決定されました。まずはその背景をお聞かせいただけないでしょうか。

社長室 デジタルイノベーション担当
シニアマネージャー
DataRobotの導入は、ヤマトHD社内で“未見の敵”と呼ばれる未知の競合他社に対する危機感が背景にあります。大手ECサイトのロードマップに宅配事業があったり、ゼネコンや商社が高速道路のインターチェンジ付近で大型倉庫を借りて3PL(3rd Party Logistics:サードパーティ・ロジスティクス)事業を始めたりしている。今はお客様や協業パートナーがライバルになることもある時代です。以前は同業他社だけを見ていればよかったのですが今後はそうもいきません。この状況に対する打ち手がオープンイノベーションです。色々な会社さんと組んでDXを実現するという戦略はヤマトHD以外でも常套手段になっていますよね。
こういったことが背景にあってデジタルイノベーション推進組織であるYDIC(Yamato Digital Innovation Center)ができました。DXを実現するにはビッグデータの活用が必要です。グローバルで活躍している多くの企業はアルゴリズムを使った機械学習でビッグデータを活用して武器にしています。
話題のライドシェアもビジネスモデルとしてはドライバーと乗りたい人のマッチングでしかないですよね。同じサービス同士での競合で勝ち残っているのは、圧倒的なビッグデータを分析してダイナミックなプライシングをしたり、消費者に高度なUXを提供したりしているところです。こんな事例をみてアルゴリズムを使ったデータ分析は絶対必要だと思い始めていました。
ところがアルゴリズムを活用できるデータサイエンティストやビジネスアナリストのような人間は社内にほとんどいません。ですから内部で育てたり外から採用したりする必要があるのですが、この内部育成のなかで育ってくれたのが中田です。
ある時、DXや機械学習関連の本を読んでいてDataRobotを知りました。これはどのようなものかと検索してみたら英語のWebサイトしかなく、困ったなあと思っていたらNSSOLさんがパートナーをやられていました。「なんだNSSOLさん、やっているんじゃない」なんて言っていたら営業の廣川さんが僕と接点を持つようになり、NSSOLさん経由なら安心して使えるよね、ということで声をかけて使い始めたのが最初です。
育てる、人を採用する、といった方法に加えてDataRobotでデータサイエンティストを活用する、ということです。ハイスキルなデータサイエンティストを育てるには時間がかかりますので、育つまでの間はDataRobotを使って分析をどんどんやろう、実験を始めよう、というつもりで導入しています。
中田には「まずはDataRobotのスペシャリティストになってよ」という話をしています。そしてゆくゆくはスーパーデータサイエンティストになってほしいわけです。
ご提案当時、日本でDataRobotに注目されていたのはメガバンクを中心とした一部の大手金融業のお客様だけでした。導入事例の無い物流業、しかもヤマトHD様にお声がけいただいた事には、驚くと同時に何か面白い取り組みができるのではないかという興奮を覚えた記憶があります。
現場のベテランによる予測をDataRobotで代替できることがわかった
導入前のPoCではどんなことが印象に残っていますか?

社長室 デジタルイノベーション担当
アシスタントマネージャー
最初のテーマ設定からNSSOLさんに入っていただき、PoCでは、呼量予測、ECサイトの需要予測、顧客ごとの売上予測の3テーマに取り組みました。案としては他にも色々なテーマがありましたが、本当にできるのか?というもの省いていって残ったのがこれらです。
まずは結果を出しやすく、内容を理解しやすいテーマを当社データサイエンティストの藤原が選定させていただきました。ヤマトHD様にとっては新しいチャレンジとなり、テーマ設定からデータの収集、DataRobotでモデルを作るというところまで中田様が本当に頑張っておられました。ここまで漕ぎつけたのは中田様の想いがあってこそだと思います。
PoC期間の1か月でこの3テーマは厳しいと言われましたが、それでも何とか取り組めそうなテーマがこの3つでした。テーマが決まってからもまた大変で、進めるために何をすればいいのか、どういうプロセスを踏めば期待する結果を出せるのか、藤原さんには色々と教えていただきました。分析の進め方を自分の中で落とし込むところに一番苦労しましたね。
DataRobotを現場に展開するときは“もっていき方”が重要
DataRobotの機能に対する評価はいかがだったでしょう。メガクラウドのマシンラーニングサービスやほかのモデリングツールとの比較などもされたのでしょうか。
実は最初からほぼDataRobot一本でした。ほかのサービスやツールも調べましたが、機械学習がここまで自動化されたソリューションは無く、全く違うものだったという認識です。
実はお客様から寄せられるご質問の中で最も多いのが価格に関するものです。たとえば「非常に良いソリューションだが、費用対効果を社内でどう説明すれば良いのか悩ましい」という質問です。価格面の評価をどう社内に伝えるのか、ご経験やアドバイスなどがあればお願いします。
実は我々もそこは難しい所だと考えています。費用対効果を出せと言われるとまだ厳しいものがあるので、どちらかといえば新しいチャレンジだという位置づけです。アルゴリズムを使って予測モデルを作るようなことは「やってくれ」と急に言われてできることではありません。直近の費用対効果というよりは、将来的に必要になる領域だから取り組む、ということです。
たとえば出荷予測一つとってみても、今までは各現場にいる人が“鉛筆ナメナメ”しながら時間をかけてやっていたわけです。DataRobotの横展開で、この時間的コストを倍々ゲームのように削減していけます。こういった部分での費用対効果は期待できると思いますので、今後一定のタイミングで振り返りを行うつもりです。どの位の効果を算出できるか楽しみです。
本番導入後のヤマトHDグループ内からの評判はどうでしょうか。たとえば「AI?何か面白いことをやっているね」なのか「何だか難しそうなことをやっているな」なのか、こういった社内からの評判について教えてください。
最初は抵抗があったと思うんですよ。勝手知ったる作業を勝手知ったるやり方でやる方が楽じゃないですか。ですから抵抗はあったと想像していますが、それでもヤマトグループ内ではDataRobotの予測モデルが既に十数顧客に展開(取材当時)されています。ある程度のポジションにいる人間が「これは使える」と評価しないとできないことですよ。
現場にいるベテランの方に中田様のような若い方が「こんな予測ができるんだけど」と話をもっていってもなかなか聞いてもらえない状況はありませんでしたか。他のお客様でも、DataRobotを担当されている方が現場に予測を持っていったら「占い師の話を聞いているみたいで全然わからない、どうやって予測したのかもう少し説明してほしい」と言われたそうです。
現場に行くときは最大限“持っていき方”に気を付けるようにしています。ですからアルゴリズムなど専門的な話をするのではなく、実績に対して予測ではこうでした、という結果を端的に伝えるようにしています。評価指標についても現場が直感的に理解できるものにしたり、予測と実績をグラフにして可視化したりしています。IT部門とも連携して進めているのですが、やはりそのIT部門でも出し方には気を付けています。できるだけシンプルに、ですね。
ヤマトHD様の現場展開が比較的スムーズに進んでいるのは、そんな中田様のきめ細やかな配慮があってこそだと思います。まさにAI浸透の立役者ですね。
運用を知っていて品質へのこだわりもあるNSSOLだから安心できる
DataRobotの評価については伺いましたが、NSSOLについてはいかがでしょうか。データサイエンティストや営業担当について印象を教えてください。
これは以前、廣川さんにも話したことがあるのですが、最近気に入っている言葉が2つあるんです。一つは「アジャイルといい加減は違う」です。PDCAを高速で回して、とにかく早くやる、失敗もOK、というのと、いい加減にとりあえずやる、というのは違う、という意味です。
もう一つは「ポジティブと無謀は違う」です。とにかく積極的に色々なことをやっていくというなかで、それなりの戦略や戦術を立てて臨むのと、やみくもに突っ走るのは違うよね、ということです。
僕たちの取り組みは、とかく高速にアジャイルに、ポジティブに、なんて言われることが多い。でもそこには最低限の品質が担保されていなければなりません。システムの開発や運用の領域では品質に対するこだわりが必要ですよね。運用の重要性を知っていて品質にもこだわるという、NSSOLさんの鉄のDNAは僕の感覚にも合っているなとすごく思いますし、だからこそ安心して支援をお願いできると感じています。
NSSOLさんからDataRobotを導入してもう1年になりますでしょうか。直近だとデータサイエンティストの藤原さんに3か月ほど入っていただいていますが、分析だけでなく、ちょっとした困りごとも質問するとすぐに返してくださいます。NSSOLさんに入っていただいたことで案件を円滑に進められたと感じます。製品自体だけでなく、製品を使っていくところ、ユーザーサポートについても非常にしっかりしているという評価です。
以前、新規のデータ活用で新しい事業会社を訪問してヒアリングすることがあったのですが、どんな風に聞けばいいのか、ヒアリングではどういうことに気を付けるべきか、こんなところまでしっかり教えていただきました。おかげさまでその後のヒアリングは上手くいきましたよ。
私が支援させていただいたお客様は、目の前のプロジェクトにのみ集中して取り組まれる方と、プロジェクトを自分自身の成長やスキルアップの機会ととらえている方に分かれます。中田様は「自分自身が成長しないと今後やっていけない」という想いがすごく強い方だなと感じましたので、私としてもただ目の前のプロジェクトを支援するだけでなく、今後の新しいプロジェクトは一人でできるようなる、ということを目指して支援させていただきました。
さきほど運用や品質の話をしましたが、そういう意味では営業を含めたNSSOLさんの品質を評価しているということです。営業対応も非常に良く、常々助けてもらっています。
そうですね。廣川さんは我々だけでなく、ヤマトグループの中で色々な会社の人間とも会われていて、グループ全体をみようとして下さっていると感じます。その上で私たちYDIC(Yamato Digital Innovation Center)に必要な要素は何か、というところを考えてくださるので、このあたりはほかのベンダーさんに無い部分かなと思います。
さきほど奥住様がおっしゃっていた「ポジティブと無謀は違う」という話にも関係しますが、YDICというチャレンジングな組織の役割を考えた上で必要なものは何だろうか、ということは意識して話をお持ちするようにしています。何でも持っていけばいい、というものではありませんからね。
またこれは個人的な目標でもありますが、営業として単純な物売りではなく、お客様の立場や周辺環境、ミッションや目指す方向性にも共感した上で一緒に答えを考えていきたいですね。
ユーザーが意識することなく機械学習を利用している状態が“AIの民主化”
最後に今後の活用について教えてください。AIの民主化をどうするかというお話でも、将来の夢や展望でも結構です。
二つあります。一つはDataRobot自体をどうしようかということ。どんどん自動化を進めていきたいんですよね。AIの民主化でよく話題に上る企業さんだと、現場の戦略部門やIT部門でデータサイエンティストが育っていて、その人たちがDataRobotをまるで表計算ソフトのように使いこなしていますよね。これがAIの民主化だと。でも僕のアプローチは少し違います。
出荷予測を元にした要員計画表が自動的に出てくるシステムがあり、各現場のデスクトップにはDataRobotのアイコンある。そしてこれをクリックすると要員計画表が自動的に出てくる。こんな運用が日常になっている状態をAIの民主化だととらえています。こういったシステムが様々な業務、様々な事業会社に普及していて、どの会社のどのセクションにいってもDataRobotのアイコンがあり、ユーザーは意識していないけれど実はAIや機械学習を日常的に利用している。こんな状態がヤマトHDなりの、あるいは奥住なりのAIの民主化だと考えています。
既に出荷予測は業務に適用されています。PoCのテーマだった呼量予測もYTC(ヤマト運輸)で使い始めた。これからで言えば荷量予測の適用も進めています。要はDataRobotの予測を適用できる業務はヤマトグループ全体でまだまだたくさんあるんです。あっちでもこっちでもDataRobotが自動で動いている、こんな世界を作りたいですね。
二つ目はNSSOLさんへの期待です。ある技術がヒントになって新しいビジネスモデルが生まれるというパターンもあれば、元々あったアイデアを新技術で実現できるようになって新しいビジネスモデルが生まれるというパターンもあると思います。前者の方はいくつかやってきていますので、NSSOLさんには後者のパターン、アイデアを実現できる新しい技術の紹介を期待したいと思っています。
私も奥住と同じ想いです。まずはグループ内での展開を進めたいですね。DataRobotにはAPIがあって基幹システムとも連携させやすいですから、グループ内で横展開しやすい。いまはヤマトグループ内で現在とり入れている案件に注力していますが、グループ全体でAIを活用できるよう、DataRobotをコアにグループ内で色々と仕掛けていくつもりです。
DataRobotの展開、浸透はもちろんのこと、NSSOLは5年~10年先に実用化が見込まれる新技術についても常にベンチマークを続けています。今後は新しい領域でも他のお客様があっと驚くような取り組みでヤマトHD様とご一緒できれば嬉しいですし、そうなるように営業として尽力していきたいと思います。
本日はありがとうございました。

ヤマトホールディングス株式会社
- 本 社:
- 東京都中央区銀座2-16-10
- 設 立:
- 1919年11月29日
- 資本金:
- 1,272億34百万円(2019年5月17日現在)
- 従業員数:
- 206人(2019年5月17日現在)