SAP Sapphire 2024参加レポート1:日本の製造業に寄り添うSAP導入戦略とは

SAP Sapphire 2024参加レポート1:日本の製造業に寄り添うSAP導入戦略とは

2024年7月にアメリカで開催されたSAP Sapphire 2024は、SAP社が最新の技術やITトレンドを世界中の企業に紹介するイベントです。現地の様子や、そこで得た製造業の今後の展望などの情報、そして今後の日鉄ソリューションズの取り組みについて、このイベントに参加した産業ソリューション事業本部の魚本・中埜に話を聞きました。

日鉄ソリューションズ株式会社
産業ソリューション事業本部
産業ソリューション第一事業部
システムエンジニアリング第三部長
魚本 礼之
日鉄ソリューションズ株式会社
産業ソリューション事業本部
イノベーティブソリューション統括センター
ERPソリューション部長
中埜 公夫

―SAP Sapphire 2024では、製造業におけるIT化についてどのように打ち出されていたのでしょうか。


魚本:今回は特にSAP社が開発した生成AI型のデジタルアシスタントである『Joule』について大きく取り上げられていました。AIをERPにうまく組み合わせることで、業務プロセスの中で「こうなればいいな」と思っていたユーザー体験が実現されるようになります。

また、私たちSIerが従来行ってきた開発業務やコンサルティング業務の一部についてもAIが担えるようになることも強調されていました。これにより、私たちはお客様の課題の解決や業務改革・改善に向き合うことが出来るため、さらに付加価値の高いサービスが提供できるようになると前向きに捉えています。

中埜:とはいえ、AIとERPの融合は始まったばかりであり、生成AIをビジネスプロセスに取り込むことによってどのような価値を生み出せるかについて、その可能性を見極めていく段階にあると考えています。

今回私たちは、アメリカのSAP Sapphire 2024に参加して、3日間かけて最新のテクノロジーと今後の可能性についての情報を収集してきました。これからも、日本にはまだ入ってきていない情報も積極的に収集し、日本の企業のみなさまに付加価値の高いサービスを提供し続けていきたいと考えています。



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―世界的には、製造業のシステムはどのように変わっていくと思われますか。


中埜:確実にクラウドシフトが進むと思っています。これまでは自社でサーバを用意してそこにシステムを構築・実装する、いわゆる「オンプレミス」での対応が主流でしたが、今後はこれがクラウドに移行されると考えています。システムを「持つ」のではなく、「利用する」という形に変わるということですね。

―日本では、個々の企業向けにカスタマイズされたシステムをオンプレミス環境で運用しているケースも多いですよね。


魚本:それに関しては、今回のSAP Sapphire 2024でも取り上げられていました。生成AI型のデジタルアシスタントJouleによる業務プロセスの効率化・最適化の恩恵を受けるためにもSAPシステムをクラウドで利用することが前提となります。また、システムが過度にカスタマイズされていると、今後、SAPシステムの機能がアップデートされても、それに対応するためにシステムを都度改修するための時間やコストもかかってしまいます。

中埜:日本企業ではERPを適用している領域が限定的であることが多いため、今後は、生成AIを組み込んだERP活用領域を拡大するニーズも高まっていくと思います。また、オンプレミスで運用されているシステムをパブリッククラウドに移行した上で、SAP以外のシステムも含めクラウド間でのサービス統合を進めることも積極的に取り組むべき分野になると考えています。従来は手作業でつないできた業務を、より効率的に連携させて高い価値を生むといった仕事が増えてくるでしょう。




―そこには弊社の強みも活かせそうですね。


魚本:そうですね。私たちは製造業における業務の知見を多く持っていますので、それを活かし、インダストリークラウドなどを活用してSAPシステムとエコシステム連携させることで、お客様が抱える課題の解決に貢献できると思っています。SAPシステムを使った社内業務の改善においては既に一定の成果を上げてきましたが、それだけですべての課題を解決することは難しいでしょう。今後はSAPシステムを活用しながら、その周辺領域においても私たちの業務知見を活かしたプラットフォームサービスを提供していきたいと考えています。それにより、業務改革・改善だけでなく、社会課題の解決もサポートしていきたいですね。

―社会課題の解決について、もう少し詳しく聞かせてください。


魚本:例えば、製造業の中でも特にプロセス製造業や鉄鋼業のような分野では、カーボンニュートラルという課題がありますよね。現在使っているソリューションをAIや外部のクラウドサービスと組み合わせて個社の生産効率や業務効率を改善することや、ビジネスネットワーク全体の効率を高めることでカーボンニュートラルという社会全体の課題解決につなげていくといったアプローチも考えられます。AIの導入・進化により、今後、こうした可能性はさらに広がっていくと思っています。

―日本でそのような取り組みを進めていくにあたりどのような課題がありますか。


魚本:日本ではこれまで、現場の声を聞いてシステムをつくるという方法が主流でした。これからは「出来るだけ既存のものを使って付加価値を最大化する」という考え方に変えていく必要がありますが、これは日本の企業における一つの大きな課題だと思います。

―具体的にはどのような形で課題を解決していくのでしょうか。


魚本:弊社もこれまでは、個々の企業の業務や要望に合わせてアドオンを追加するといった対応をすることも多くありましたが、今後は、業務そのものを変更していただくようなご提案していく必要があると思っています。そのために私たちは、お客様の業務をしっかりと理解した上で、それをどのように変更すべきかをご呈示するだけでなく、社内の関係部署の方々にもご理解や同意をいただけるようなサポートを提供させていただくことが重要になると考えています。

中埜:これからは、業務の標準化が大切になってくると思います。特にERPが関わるバックオフィス業務については、ERPの導入によって効率化できる業務については可能な限り標準化を進める一方で、個々の企業の差別化につながる業務を洗い出し、そこを集中的に強化するようなコンサルティングにも力を入れていきたいと思います。

―コンサルティングに必要な人材育成やスキルアップの方法について聞かせてください。


魚本:社内の教育プログラムに加えてOJTも重視しています。例えば、同一業種や業界内で一人のSEやコンサルタントが複数のお客様を担当し、個々の業種・業界に共通する課題を解決するという経験を積み重ねていきます。こうして得られた知見を他のお客様にも横展開し、それを共有資産(アセット)として活用していくというものです。

また、弊社自身もSAPシステムを導入し、導入や運用に関するノウハウを蓄積するという取組も進めています。こうして十分な知識と経験を積んだ上でお客様のサポートをしていますので、安心して何でもご相談いただければと思います。

―今回SAP Sapphire 2024に参加されて、特に印象に残ったことがあれば教えてください。


中埜:今回のキーワードであるビジネスAIが、全てのセッションで一貫したテーマとなっており、大きなメッセージを伝えるという構成になっていたことですね。例えば、あるセッションでは、AIを活用するためにはクリーンコア、つまりERPを出来るだけカスタマイズせずに標準機能を活用することが理想であるという話がされていました。一方、別のセッションではクリーンコアそのものについての解説が行われるなど、セッション全体が一貫した構成になっていた点が素晴らしいと感じました。

これはSAP社が買収した製品に関するセッションについても同様で、例えば、2日目にSAP FieldglassやSAP Signavioというソリューションについてのセッションがあったのですが、こうしたソリューションについてもSAP社のビジョンがしっかりと反映された内容になっていました。SAP社は今後も様々なソリューションを有機的に統合させながら、SAPシステム全体の機能の高度化につなげていくというスタンスが感じられました。





今回のSAP Sapphire 2024では、AIの進化や最新技術の導入が製造業のビジネスにどのような影響を与えるのか、特に、システムのクラウド化や標準化が求められる中で、製造業がどのように効率化を図り、競争力を維持するかが重要なテーマとなっていましたが、本記事だけはカバーしきれないほど盛りだくさんの内容でしたので、SAP Sapphire 2024の個別セッションで収集した最新情報や、SAPや最新技術を取り入れる際の課題解決については、 SAP Sapphire 2024参加レポート2で紹介します。