SAP Sapphire 2024参加レポート2:AIの進化がもたらす製造現場の変革
2024年7月にアメリカで開催されたSAP Sapphire 2024。日鉄ソリューションズ株式会社も世界の最先端技術や最新情報を収集するためにこのイベントに参加し、20以上のセッションで話を聞いてきました。 SAP Sapphire 2024参加レポート1に続く参加レポート2では、日鉄ソリューションズ 産業ソリューション事業本部の石井が参加したセッションの中から特に興味深かった点について話を聞きます。
産業ソリューション事業本部
営業本部 ソリューション推進部 エキスパート
―今回参加したセッションの中で、特に印象に残ったものを教えてください。
石井:2日目に行われた"Unlock business agility with cloud
ERP"というセッションですね。
このセッションでは、SAP社が提供する最新のERP " SAP
S/4HANA®"が切り拓くERPシステムの新たな活用方法についての大変興味深い説明がありました。
中でも強調されていたのは、SAPシステムが経営判断のためのツールとして、今後より一層の進化を遂げていくという点です。今後、SAP
S/4HANAにSAP社の生成AIであるJouleが組み込まれることで、経営者が自然言語でSAP
S/4HANAに問いかけると、JouleがSAP
S/4HANA内に蓄積されたデータから適切な分析結果をまとめ、自然言語で回答してくれるようになります。これによって、SAP
S/4HANAを経営者自身が意思決定を行うためのシステムとして活用していくことを想定しているそうです。
SAP社の製品にはSAP Analytics
Cloudという、計画から予測分析、BIなどのデータ分析機能を提供するクラウドサービスがありますが、これまでは主に分析を専門に担当するデータアナリストなどによる利用が想定されていました。今後はJouleが組み込まれる事で、対話によるデータ分析も可能になるので、データの処理や分析に関する専門的な知識がなくても、ビジネス観点の自然言語での問いかけで期待する結果を得ることが出来るようになります。
また、Jouleに関してもう一点興味深かったのが、Microsoft社とのアライアンスの話でした。
―Microsoft製品とSAP社のシステムが連携するのですか。
石井:そうです。Microsoft社はMicrosoft Copilotという生成AIをMicrosoft TeamsやMicrosoft Office製品などに組み込んで、ユーザが生成AIを日常的に活用できるようにしていますが、今後はJouleをMicrosoft Copilotと連携させるそうです。これにより、例えばMicrosoft Teamsの画面上でSAP S/4HANAに自然言語で指示を出すことが可能になります。これからはSAPシステムを開いていない状態でも様々な機能を使えるようになるため、Microsoft Teamsを日常的に使っている人にとってもは、非常に便利な環境が整いますね。
―生成AIを業務に取り入れる際、その回答が本当に正しいのか、信頼できるのかを心配されることが多いと思います。この点については、どのように考えればよいでしょうか。
石井:SAP Sapphire
2024でも、この点についての話がありました。SAP社では、データの誤用や間違った意思決定を防ぐため、AIが呈示する情報に関する信頼性を向上すると共にAIが行う分析に関する説明責任を果たすことにも取り組んでいるとのことです。
しかしながら、それでも利用者にとってその不安が完全に払拭されるわけではないので、今後はSAP社のコンサルタントも、私たちSIerなどに対する教育や情報提供、アドバイスなどに力を入れていくそうです。
―とはいえ、完璧なものを求めるあまり、後手を踏んでしまうこともあるかもしれませんよね。利用者側もトライアンドエラーを繰り返しながら、自社に合う解を導き出していく必要があるかもしれませんね。
石井:残念ながら、今の日本の製造業は世界標準と比較すると遅れている部分も少なからずあります。まずは先行している国や企業が何をしているのか、どこまで取り組んでいるのかを正しく把握するところから始めるべきかもしれません。日本の製造業が培ってきた品質やプロセスには良い面もたくさんあり、それが世界を牽引してきたという側面がある一方で、過去の成功体験を大事にしすぎるあまりに、遅れをとってしまっているところもあるように感じています。
それに関して、Hannover Messe
2024を訪れたときに印象的だったことがあります。ドイツのSiemens社のブースで意見交換をしていた際、インドから来た参加者が「インドがヨーロッパに追いつくためにはどうすれば良いか」という質問をしていました。それに対してSiemens社のCEOは、「一足飛びに成長はできないのだから、出来ることから一つひとつ着実にやっていくしかない。ドイツもそのようにして、政府、企業、人々が共に課題に一つ一つ取り組んで解決しながらここまで来た。」という話をしていました。
―遅れを自覚している国ほど、前に進むための対策も積極的に講じることが出来るということでしょうか。
石井:私は2023年までタイに駐在していたのですが、タイの現場には、過去の慣習に囚われずに新しいものを取り入れることにどんどんチャレンジしようという風土があります。そのため社会を支えるITインフラが速いスピードで進化しており、例えば銀行のシステムなどは日本よりも進んでいるところも多いと感じました。
一方、日本では既に存在する長らく使われてきたシステムの規模も大きいですし、新しいものを企業の現場に取り入れるためには社内の合意形成も大変ですよね。実際、日系企業でも、海外の現地法人から新しいことにトライしてみるというケースもあり、そこで得た成功体験を日本の本社が逆輸入するというやり方も良いのかもしれません。