SAPとは?機能や種類、導入のポイントを徹底解説

SAPとは?機能や種類、導入のポイントを徹底解説

「SAP」とは聞いたことがあっても、その概要やどのような機能があるかなどわからない方も多いのではないでしょうか。 SAP(エス・エー・ピー)は、企業の基幹業務を効率化し、競争力を高めるためのERP(Enterprise Resource Planning)システムの代表的なITソリューションです。世界中の多くの企業で導入されており、とくに大企業を中心に高い信頼を得ています。 本記事では、SAPの基本的な特徴や他のERPシステムとの違い、導入のメリットやデメリット、さらに具体的な導入事例について詳しく解説します。



SAPとは?

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SAPとは、1972年に設立されたドイツに本社を置くソフトウェア企業であるSAP社を指し、世界的に有名なERPを提供しています。
SAP社が提供するERPシステムについても「SAP」と呼称されることから、SAPというのは会社名よりもSAP社のERPシステムの一つとして捉えられることもあります。
「System Analysis Program Development」の頭文字から名付けられたこのシステムは、企業の様々な業務プロセスを一元化し、データ管理の効率を向上させることを目的としています。
とくに、財務、人事、在庫管理などの領域において、SAP社のERPシステムは多くの企業で活用されています。

ERPとは

ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業のヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を統合的に管理し、業務の効率化を図るためのシステムを指します。
従来、企業の各部門は独自のシステムを使用しており、データが分散していたため、部門間での情報共有が困難でした。ERPの最適化されたシステムではこの問題を解決し、全社的な視点でのデータ統合が可能になります。
ERPによって、各部門が同じプラットフォーム上で作業でき、業務効率が向上し、経営判断の迅速化を図ることができるでしょう。

SAPの2027年問題とは

SAPの2027年問題とは、SAP社が提供している「SAP ECC」のサポート終了に関する課題を指します。
SAP ECCは、従来のERPシステムとして広く導入されてきましたが、2027年末をもってメインストリームサポートが終了する予定です。これに伴い、SAP社のERPシステムのユーザーは新しい「SAP S/4HANA」などへの移行や代替製品への乗り換えなどを検討することになります。
2027年問題への対応にはコストやシステム調整が必要となり、多くの企業がハードルの高い対応を迫られています。

SAP社のERPと他のERPとの違い

SAP社のERPと他のERPと比較した最大の特徴は、幅広い業務に対応する標準機能の充実です。
昨今グローバル化やテクノロジーの発展などによって、ビジネス環境の変化が激しく、一定の機能だけでは対応が難しいこともあるでしょう。
SAP社のERPシステムは、さまざまな業務に最適なカスタマイズが可能であり、企業の独自ニーズや事業環境の変化に柔軟に対応できます。

SAP社のERPシステムの主なモジュール(機能)

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SAP社のERPは、企業の業務を効率化するために、多岐にわたるモジュールを提供しています。SAP社が提供するERPの主なモジュールは以下のとおりです。

【SAP社が提供するERPの主なモジュール(機能)】

  • 財務会計(FI)のモジュール
  • 固定資産管理(FI-AA)
  • 管理会計(CO)
  • 販売管理(SD)
  • 在庫購買管理(MM)
  • 生産管理(PP)
  • プラント保全(PM)
  • 品質管理(QM)
  • 人事管理(HR)

以下でそれぞれについて順に解説していきます。

財務会計(FI)のモジュール

財務会計モジュール(FI)は、企業の外部向け財務報告書を作成する目的で使用されており、決算、固定資産・債務・債権管理などを行うための機能があります。また、他のモジュール(販売管理、在庫管理など)と連携して、リアルタイムで財務データを更新することができるため、経営層が迅速に財務状況を把握し、意思決定を行うことが可能です。

固定資産管理(FI-AA)

固定資産管理モジュール(FI-AA)は、固定資産取得やそれに伴う減価償却の計算など、固定資産に関する管理ができます。
固定資産が多い企業の場合は、とくに活用する場面が多いモジュールとなります。

管理会計(CO)

管理会計モジュール(CO)は、企業内部でのコスト管理や利益分析を行うことができます。部門別のコストや収益の分析を行い、製品やプロジェクトごとの社内における会計や業務を支援します。
管理会計のモジュールを使うことで、部門ごとの経営状況を可視化するデータの集計やレポート作成の手間も少なくなるほか、タイムリーに部門ごとの経営状況を把握でき、迅速な経営判断が可能になるでしょう。

販売管理(SD)

販売管理モジュール(SD)は、受注から出荷、請求までの販売プロセスを一元管理できます。
顧客の注文処理、納品のスケジュール管理、請求書の発行までを自動化し、販売活動の効率化を図ることができるほか、企業はリアルタイムで在庫状況や販売状況を把握し、販売データを分析して将来の需要を予測することが可能です。

在庫購買管理(MM)

在庫購買管理モジュール(MM)は、在庫の入出庫や棚卸といった在庫管理業務を効率化するための機能があります。
資材やサービスの調達から、発注、納品、検品、在庫管理などを一元的に管理でき、購買プロセスの最適化を図ります。

生産管理(PP)

生産管理モジュール(PP)は、企業の製造プロセスを計画・管理することができます。
生産スケジュールの作成や資材の管理、製造指示などに関わる機能を提供し、生産効率の最大化をサポートします。

プラント保全(PM)

プラント保全モジュール(PM)は、工場や設備の検査・保守・修理などを管理できます。設備の保守計画や修理依頼、予防保全などを一元的に管理し、設備のダウンタイムを最小限に抑えることができます。
PMモジュールを使用することで、設備の稼働状況や修理履歴をリアルタイムで把握でき、故障の早期発見や未然防止に寄与できるでしょう。

品質管理(QM)

品質管理モジュール(QM)は、製品やサービスの品質を管理するための機能があります。
生産過程や製品の品質を管理し、品質基準に基づいた検査や分析を行うことにより、品質に関するデータをリアルタイムで取得し、不良品の早期発見や品質向上に寄与できるでしょう。
品質管理モジュール単体で使われることは少なく、MMモジュールと連携して使われることが多いです。

人事管理(HR)

人事管理モジュール(HR)は、人材管理や勤怠、給与計算といった人事業務を効率化するための機能を提供します。
従業員の勤怠管理、給与計算、採用活動、能力開発などを一元的に管理でき、人材に関するデータをリアルタイムで把握できることから、人的資源を最大限活用できるようになるでしょう。

SAP社のERPシステム導入のメリット・デメリット

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業務の一元管理や効率化などが可能になるといったSAP社のERPシステムですが、導入を検討する際にはメリット・デメリットを知っておくことが重要です。
以下でSAP社のERPシステムを導入するメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。

SAP社のERPシステム導入のメリット

SAP社のERPシステム導入には先でも解説しているとおり、いくつかメリットがあります。
まず、各部門のデータを統合することで、情報共有がスムーズになり、業務の効率化が図れます。
また、SAP社のERPシステムでは、リアルタイムでデータを確認できるため、経営層は正確かつ迅速な意思決定を行うことができます。
さらに、内部統制の強化も大きなメリットです。データの入力や変更履歴がすべて記録され、不正行為の早期発見が可能になることから、内部統制の強化も可能となります。

SAP社のERPシステム導入のデメリット

一方でSAP社のERPシステムの導入にはいくつかのデメリットも存在します。
まず、導入費用が高額であり、とくに中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。ライセンス料やシステム構築費用に加えて、運用・保守にかかるコストも高いため、予算の確保が必要です。
また、SAP社のERPシステムは非常に多機能なシステムであるため、企業がシステムを完全に使いこなすためには専門知識が求められます。システムの設定や運用には、社内のIT部門や外部の専門家のサポートが不可欠な場合も多いです。

SAP社のERPシステムの種類

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SAP社は、さまざまな企業規模や業界に対応するために複数のERPソリューションを提供しています。
SAP社が提供する代表的なERPの種類は以下のとおりです。

【SAP社が提供するERPの主な種類】

  • SAP ECC
  • SAP S/4HANA
  • SAP S/4HANA Cloud
  • RISE with SAP
  • GROW with SAP
  • SAP Business ByDesign
  • SAP Business One

以下でそれぞれについて順に解説していきます。

SAP ECC

SAP ECC(ERP Central Component)は、従前のSAP R/3の相当となるERPです。
クライアントサーバー型のシステムで、WindowsやUNIXといったさまざまなプラットフォームで動作が可能なため、多くの企業で採用されています。
SAP ECCの特徴として、モジュールごとに機能を自由にカスタマイズできるため、企業は自身の業務プロセスに合わせて柔軟にシステムを導入・運用することが可能です。
SAP ECCは、オンプレミス環境で動作し、2027年までメインストリームサポートが提供されていますが、将来的にはSAP S/4HANAへの移行が推奨されています。

SAP S/4HANA

SAP S/4HANAは、SAP ECCの後継として2015年に発表された次世代のERPです。
SAP HANAというインメモリーとカラムストアを活用した高速なデータベースを基盤としており、リアルタイムで大量のデータを高速処理することが可能です。
また、ユーザーインターフェースも刷新され、より直感的で使いやすい操作が可能となっています。

SAP S/4HANA Cloud

SAP S/4HANA Cloudは、SAP S/4HANAのクラウド版であり、SaaSとして提供されています。
Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudなどクラウド環境を利用することで、初期導入コストを抑え、迅速な導入が可能です。
また、クラウド上での運用により、最新の技術や機能が常に自動的にアップデートされるため、メンテナンスの手間が大幅に軽減されます。SAP S/4HANA Cloudは、とくに中小企業や、オンプレミス環境を管理するリソースが不足している企業にとって有用なソリューションといえるでしょう。

RISE with SAP

RISE with SAPは、SAP社のERPシステムが提供する包括的なクラウドサービスです。
SAP S/4HANA Cloudを中核に、「BTP(SAP Business Technology Platform)」や、様々な企業と連携するネットワークサービス、SAP学習コンテンツ(SAP Learning Hub)なども提供されています。
RISE with SAPの大きな特徴は、ハードウェア/OS/DBの最適な組み合わせを考慮した運用などといったクラウド導入に伴う複雑なシステム統合や管理を支援するため、SAP社のERPシステムがすべてのプロセスを一元的にサポートする点です。また、オンプレミスからクラウドへの移行をスムーズに進めるためのツールも提供されており、企業が最適な形でクラウド環境を構築できるようサポートされています。

GROW with SAP

GROW with SAPは、SAP社が提供するERPシステムの中小企業向けのクラウドサービスです。
主に「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をベースに構成され、初期費用を抑えながら迅速な導入を可能にします。また、アプリケーション開発やデータ分析、AIなどの機能があるBTPや各業界のベストプラクティスが記載されたガイドラインも提供されます。
RISE with SAPと比較すると、GROW with SAPは高度な財務管理機能を要する大企業というよりは、新規でSAP社のERPシステムを導入する中堅・中小企業に向いています。

SAP Business ByDesign

SAP Business ByDesignは、2007年に発表され、36の業務プロセスに対応しているSaaS型のERPパッケージです。
導入までの期間が短く・初期費用を抑えて導入が可能なことから、中堅・中小企業を中心に導入が進んでいます。

SAP Business One

SAP Business Oneは、業務プロセスを1つのシステムで網羅的に統合管理できるERPパッケージです。
会計、販売、在庫、購買、生産などの業務を一元管理できるため、ビジネス全体の透明性を向上させ、効率化を図ることができます。
SAP Business Oneはカスタマイズを必要とせずに使用できる標準機能によって、さまざまな国の言語や税制などにも対応可能となっています。

SAP社のERPシステム導入のポイント

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SAP社が提供するERPシステムの導入はコスト・期間がかかるため、導入前にポイントを抑えることが大切です。
SAP社のERPシステム導入のポイントは以下のとおりです。

【SAP社のERP導入のポイント】

  • 既存業務の運用を整理
  • 業務の要件を網羅したカスタマイズ
  • 社員のシステムの習熟度を高める

以下でそれぞれについて順に解説していきます。

既存業務の運用を整理

SAP社のERPシステムを導入する前に、既存の業務プロセスを整理することは重要です。
現行の業務フローを詳細に把握し、どの部分が効率化の対象となるかを明確にすることで、適切なモジュールの選定が可能になります。
また、先んじて無駄なプロセスや重複した作業を排除することで、SAP導入後のシステム統合がスムーズに進むでしょう。

社員のシステムの習熟度を高める

SAP社のERPシステムを有効活用するためにも、社員の習熟度を高めることも重要です。
SAP社のERPシステムは非常に多機能であるため、社員が適切にシステムを操作できるようになるまでには時間がかかることがあります。
そのため、導入後の運用を効果的に行うためには社員への教育が不可欠です。
教育・研修を段階的に実施し、初期段階では基本的な操作から、業務に直結する応用スキルまでを計画的に習得させることが必要となるでしょう。

SAP社のERPシステム導入企業事例:日本製鉄株式会社

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SAPは世界中のさまざまな業界で導入されています。
ここでは、SAP社のERPシステムを導入した日本製鉄株式会社の事例をご紹介します。
日本製鉄株式会社は、国内外の製鉄事業を支えるため、SAP S/4HANAを導入し、財務関連業務のプロセス改革を推進しました。
同社では、従来の自前システムから脱却し、各製鉄所の財務関連業務のグローバル標準化やトランザクションの全社集中処理化・自動化によりリソースを付加価値生産型の業務へシフトすることを目指し、SAP S/4HANAが検討されました。
その中で、財務業務システムの刷新においては、SAPはグローバルのデファクトスタンダードと評価されており、同社の制度会計主要プロセスへの適合も確認できたことから、採用に至りました。

参照元:日本製鉄、財務業務システムに次世代ERP「SAP S/4HANA®」を採用

まとめ

SAP社のERPシステムは、企業規模や業界を問わず、業務の効率化とデジタルトランスフォーメーションの推進に寄与でき、多機能かつ柔軟なカスタマイズが可能であり、世界中の多くの企業で導入されています。
とくに、SAP S/4HANAのような最新技術を活用したシステムは、リアルタイムでのデータ処理や分析を可能にし、経営の意思決定をスピーディーに行える環境を提供します。
今後も、SAP社のソリューションは、多様な企業ニーズに応える重要な手段となるでしょう。

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