DataRobot導入事例「日本たばこ産業株式会社」~AI民主化への取り組み~

DataRobot導入事例「日本たばこ産業株式会社」~AI民主化への取り組み~

世界第3位のシェアを持つたばこ事業以外にも、医薬や加工食品などさまざまな領域に事業展開を進める日本たばこ産業株式会社(以下「JT」)。日本国内でいち早くDataRobotの有用性に着目し、導入を決定した企業でもある。
今回は実際の活用方法や導入効果、今後の展開について、デジタライゼーション推進室の加藤様、橋本様、JTビジネスコムの斉藤様に話を伺った。

聞き手

栁森 和真
栁森 和真(やなぎもり かずま)
日鉄ソリューションズ株式会社
ジタルテクノロジー&ソリューション事業部 AIソリューション部
廣田 雅直
廣田 雅直(ひろた まさなお)
日鉄ソリューションズ株式会社
デジタルテクノロジー&ソリューション事業部 AIソリューション部
櫻井 友也
櫻井 友也(さくらい ともや)
日鉄ソリューションズ株式会社
流通・サービスソリューション事業本部 流通・サービスソリューション第三事業部

DataRobot導入の背景

― まずはDataRobotご導入の背景について教えてください。

加藤 治氏
加藤 治(かとう おさむ)氏
日本たばこ産業株式会社
デジタライゼーション推進室
JT 加藤

国内企業全体がデジタルに舵切りするムードになっていた2019年頃、弊社でもAIを様々な業務に活用できないかという模索をしていました。当時コーポレート部門のバックオフィス系業務等いくつかの予測モデルを作成していたのですが、機械学習の構築部分は外注に依頼するケースが大半でした。外注だと、要件のすり合わせから開発までどうしてもリードタイムがかかってしまい、スピード感に課題を感じていたところでした。ちょうどその頃、上層部向けの研修でDataRobotをご紹介いただきました。

早速DataRobotにデータ投入し既存モデルと比較してみたところ、外注先のデータサイエンティストが数か月かけて作成したモデル精度をDataRobotはボタン一つで超えてしまう。本当にすごい製品だなということですぐに導入を決めました。

― 初期テーマとしてバックオフィス領域でDataRobotをご活用いただくケースは珍しいですね。

JT 加藤

当時は我々がコーポレート部門にいたこともあり、バックオフィス系業務でPoC的に実施しました。PoCの結果、ビジネス部門にも自信を持って導入を勧められるものだという確信を持ちましたね。

― DataRobot導入部門での評判はいかがでしたでしょうか。

JT 加藤

それはもうすごい評判でした。実はそれまでもいくつか有名なAIソリューションの情報収集をしていたのですが、実際に動くものを見せてくれたのはDataRobotだけでした。しかも我々の想像をはるかに超える結果を出してくれる。いよいよ本物が現れたかという感じでしたね。

費用対効果からの脱却

― DataRobotは決して安価なソリューションではないと思います。費用対効果については社内で問題になりませんでしたでしょうか。

JT 加藤

いい質問ですね。実は我々ユーザーがトランスフォーメーションしていくべき道として、一つの解法が「費用対効果からの脱却」なのではないかなと私は考えています。AIに限らず、日本の一般企業がシステムを導入するとなると、まずはベンダーを選定して、相見積もりを取って、その見積もりに合った効果が出るのかを吟味して、稟議を上げて・・・と、実際に案件に着手する前段階で数か月から時には半年以上かかるようなケースもあるのではないでしょうか。システム導入までの部分が実装までのスピード感のボトルネックになっている、そんな常識をなんとか打破したいという思いが根底にあり、今回は我々コーポレート部門がすべて予算を拠出して導入することにしました。データを持つ現場がAIを試してみたいとなったら、すぐに環境を渡して試してもらう。やる気のある人が思いついたときにすぐに試せる体制を作れたというのが一番の効果だと思っていて、ここはもう費用対効果という次元ではありません。スピードはプライスレスです。

NSSOL 廣田

普段からJT様のプロジェクトをご支援させていただく立場として感じることは、各事業部の皆様が自発的に声を上げてくれることが多いということです。他社様ですと、コーポレート側の方が音頭を取ってDataRobotを導入いただいても、事業部側との間に距離があり、なかなか現場の方がついてきてくれないというケースもあります。事業部側との距離を上手く詰められている秘訣などはあるのでしょうか。

橋本 奈津美氏
橋本 奈津美(はしもと なつみ)氏
日本たばこ産業株式会社
デジタライゼーション推進室
JT 橋本

中途入社の身として感じることは、興味を持って実際にやってみようと思う社員が多いということです。DataRobotを紹介すると「自業務でも使えるかもしれない」と派生テーマを考えたり、周囲に共有したり、口コミで広がる形で社内でのDataRobot認知度は向上していっています。

斉藤 佳介氏
斉藤 佳介(さいとう けいすけ)氏
JTビジネスコムーIT推進・展開チーム(出向)
JT 斉藤

ただコーポレート部門から利用促進するにも、まずは実際の業務を知っていることが大切です。元々は加藤も私も工場で製造計画を立てたり、あるいは海外で工場自体を立ち上げるなど、コーポレート部門ではなく事業部門で働いていました。加えて、そんな我々が実際に手を動かして分析し、使用している自分達がこれはいいツールだと思わなければ説得力がないですよね。ユーザーとして利用した上で、確信をもって勧められると判断して、そこで初めて共感を得られるのだと思っています。

JT 加藤

どのように声をかけたら手を挙げてくれる人が増えるか、そのあたりの肌感を何となく分かっているのかもしれませんね。

社内広報の取り組み

― DataRobotを本番活用いただく中で、社内広報にも力を入れていると伺いました。

JT 橋本

社内のデジタル系の取り組みやデジタルツールのTipsを集約しているポータルサイトがあり、2022年秋以降、そこにDataRobotの記事を定期的にリリースしています。例えば、社内での実際の活用事例や研修の募集・実施レポートなどです。これまではR&D部門や製造部門など、比較的AIとマッチしやすい部門のユーザーが中心でしたが、ポータルサイトの取り組みに加え、NSSOLさんと企画した研修内に「AIとは何か」というビギナー向けコンテンツを組み込んだこともあり、営業部門やマーケティング部門、コーポレート部門をはじめ、「興味はあったが利用には至っていなかった」という興味・関心層からも参加者が増え、それに伴ってユーザーも増えました。

JT 加藤

現在では全社で100名以上のユーザーがDataRobotを活用しています。導入当初は数ユーザーでしたので、感慨深いですね。

JT 斉藤

実際、評判もとても良いです。AIを全く知らない初心者層の方々からは、「非常に簡単に使える」、「AIって怖くない」、「自分達でも扱えるんだ」などの自信につながったという声をよく聞きます。一方ヘビーユーザーの方からは、モデルのカスタマイズ機能などが優秀で、その分野においては世界最高峰のモデルを自分達で作っているんだという自負を持ったと伺っています。

NSSOL 栁森

研修で、まずは「AIとは何か」という取掛かりから始まり、実際に活用テーマを考えたり、1on1でテーマに対するディスカッションをするという取り組みをしました。個人的に印象に残っているのが、抽象的なテーマではなく、ご自身の業務に密接した、リアルなテーマが寄せられていた点です。事前の課題を拝見した時点で「おお!」と感嘆したことを覚えています。今後も同じ講座をやらせていただくことを楽しみにしています。

NSSOLとの共創

― NSSOLメンバーのご支援についてはいかがでしたでしょうか。

JT 橋本

ありがたく思っています。研修面では、社内で広くユーザーを増やしていきたいという我々の要望に対して、DataRobotに入る前の「AIとは?」というビギナー向けのエッセンスを入れていただいたり、AI初学者にも分かりやすいワードを使って説明いただいたり、その点も参加者からの評価が高かった一つの要因であった認識です。また、利用にあたって、できるだけユーザー自身が自分で課題を見つけて、それに対して自分達でAIを使い、アプローチできるようになってほしい、という我々の狙いをご理解の上で研修設計から各種サポートまでご尽力いただいた点が特に良かったと思っています。

JT 斉藤

NSSOLは我々にとって3つの機能をお持ちだと思います。一つ目は、当たり前ですがDataRobot周りの知見。AIソリューションに関する深い知見です。二つ目はエンジニアリング面で、DataRobotが提供するAPIを活用した連携を中心に、廣田さんにいただいたアドバイスが大変参考になりました。作成いただいたスクリプトは今でも月次業務の実行に役立っています。三つ目は医薬を中心とする業務知見。国内の大半の製薬会社はNSSOLさんからDataRobotを導入していると伺っており、事例紹介だけでなく横のつながりを醸成してくれていると伺っています。

NSSOL 櫻井

NSSOLではお客様およびお客様同士の共創活動に力を入れています。例えば業界ごとのDataRobotユーザー会を頻繁に行っており、製薬業様についても毎回多くの方にご参加いただいております。また「ヘルスケア・ソリューション事業推進センター」という横断組織にて、医療やヘルスケア領域において新たな事業を立ち上げようとするなど社内でも盛り上がりを見せています。こういった取り組みを通じて、お客様にとってなくてはならないパートナーの立ち位置を目指していきたいと考えています。

― 最後に、今後のご活用についてお聞かせください。

JT 加藤

DataRobotのスローガンである「AI民主化」には大いに賛同しています。近い将来、AIは表計算ソフト(Microsoft Excelなど)の一機能に収まるほど一般的になると考えています。今は一部の人が使う特殊なツールという位置づけに近いですが、そうではなくて万人が誰でも使えるようなものにすることを目指していくべきですし、きっとそうなっていくのだろうと思います。そのために我々は今の取り組みを通じて、引き続きすそ野を広げていく。一部のマニアックな人間だけではなく、一般的に使えるような状態をより広めていく必要があると思っています。表計算の一機能を利用する際に費用対効果の検討に時間をかけたりしませんよね(笑)

― どうもありがとうございました。

※本記事の掲載部署名、取材内容は2022年11月の取材当時のものです。