DataRobot導入事例「北電情報システムサービス株式会社」IT子会社起点でのDX推進

北陸地域を基盤に総合エネルギー事業を展開する北陸電力グループ。様々な事業を展開する中で、主に情報戦略を担うのがこの北電情報システムサービス株式会社(以下、HISS)だ。
創立以来、SIやデータセンター事業で業績を伸ばしてきた同社は、2019年よりAI専門チームを組成しデータサイエンティストを育成開始。その後、日鉄ソリューションズ(以下「NSSOL」)からDataRobotを導入し、グループ内のDXを推進している。今回はその経緯や導入効果について、HISSの廣野氏(システム開発部 開発第3グループ AIソリューションチーム 課長代理)、松井氏(システム開発部 開発第3グループ AIソリューションチーム)に話を伺った。
聞き手

ITインフラソリューション事業本部 デジタルプラットフォーム事業部 AIソリューション部

ITインフラソリューション事業本部 営業本部 基盤SI営業第1部

ITインフラソリューション事業本部 営業本部 デジタルプラットフォーム営業部 AIソリューション営業推進グループ
様々なテーマで活用できるAIプラットフォームとして期待
国内電力事業者様の中ではいち早くDataRobotに注目していたというHISS様。まずは導入の背景や課題などについて教えてください。

システム開発部 開発第3グループ AIソリューションチーム
きっかけは弊社の社長がDataRobot AI Experienceに参加したことですが、元々NSSOLさんとはご縁があり、DataRobotについても紹介いただいた電力業界のユースケースなどに興味を持ちまして導入に向けた検討を進めていました。
課題としては、ライセンスが買い切りではなく毎年支払いが発生するサブスクリプション契約であることです。我々の企業規模からすると結構な費用感でしたが、各事業部門の複数のテーマで活用すれば、費用対効果は十分に出せるのではないか考えました。

システム開発部 開発第3グループ AIソリューションチーム
導入自体を決めた後のオンプレ版とSaaS版の選択は難しい課題でした。元々はセキュリティ面を重視してオンプレ版の導入を検討していました。しかし価格面ではSaaS版の方が安価なので、どちらにするかは悩みましたね。弊社は独自のクラウドサービス「FIT-Cloud」を展開しており、オンプレミ版をそちらに載せることも検討しましたが、性能を出そうとするとインフラコストがかかるため、最終的にはSaaS版を選びました。
ご提案当時、データサイエンス観点でのやり取りに加えて、インフラについてのやり取りも密にやらせていただいた記憶があります。
電力業界では、国外インフラに情報を出すことには慎重な傾向がありましたが、2020年頃から親会社である北陸電力でもDX推進が本格化し、我々もAI事業化に向けてデータサイエンティストの育成を始めていたところでした。そこでSaaS版の利用可否について改めて協議し、個人情報などの機密情報を入れないという前提でSaaS版の使用について親会社の了承を得ることができ、オンプレ版と比較して安価で、すぐに利用を開始できるSaaS版の方を導入することになりました。
ITエンジニアからデータサイエンティストへの転身
HISS様はDataRobotのPoCや導入検討の前からデータサイエンティストの育成を進められて大成功されています。その辺りの経緯を教えていただけますと助かります。
HISSとしてグループの中でAIやデータサイエンスに踏み込み、サービス提供していこうという役員会の意思決定があり、私と廣野に白羽の矢が立ちました。しかし我々はエンジニア(SE)ですが、AIに関する知識はありませんでした。ちょうどその頃、寺田さんと狩野さんが北陸電力向けの報告で富山にいらっしゃった時にDataRobot AI Academyをご紹介いただきました。AIプロジェクトを推進するための一連のスキルを身に着けられると伺ったので、これは渡りに船と2人で受講しました。
約4か月間のAcademyでは、AIを活用するためのテーマの創出方法から実際のモデリング手法、結果の解釈、データモデルの実務活用など様々なことを学べました。中でも面白いのが、DataRobot社が提供する研修ではあるものの、DataRobot製品は教材の一つでしかなく、実際にpythonやSQL、Excelなどのツールを活用し分析を行うという点です。
最後は卒業論文があり、全員の前で発表し合格すれば無事卒業となります。せっかくの機会ですので、DataRobot導入の更なる後押しになるように我々は自グループ内のテーマを題材にしました。その結果、卒業テーマがビジネス上有益なテーマとして判断され、無事卒業することができ、DataRobot導入に弾みがつきました。
私も営業として様々なお客様を担当しておりますが、HISS様のような導入パターンは恐らく世界的に見ても珍しいというか、初めての事例ではないかと思っています。昨今のDXの潮流の中でIT部門と同様に存在意義が問われている情報システム子会社ですが、グループ内でのプレゼンスを上げられたこの成功事例は、他の情報システム子会社様にとっても参考になるのではないかと思います。第一歩を踏み出されたきっかけは何だったのでしょう。
社長の鶴の一声ですね。「AIを検討せよ、事業化せよ」という。実はそれまでも「AI研究会」のような社内のワーキンググループはありましたが、本業がある中ではどうしても片手間の勉強の域を脱することができず、なかなか本腰を入れられなかったのです。しかし社長のお陰で我々が専任担当となることができ、そのことが社内的に一番大きかったと思います。
AIに関する前提知識が無い中で専任担当となることはかなりのプレッシャーを感じられたのではないかと想像します。
はい、まったく前提知識はありませんでした。私は転職組で、前職でBIツールを活用して分析の業務を行っていたため、データを収集する、理解する、分析するといった基礎的な知識は持ち合わせていたのかもしれません。しかしAIを活用してデータモデルを作成する、といった経験は初めてでしたので、どうやって学んでいくのがいいか、というところから手探りでした。
ゼロからスタートされて、一番苦労された点はどの部分でしたでしょうか。
着任当初、まずはデータを収集してpythonでモデルを構築したのですが、実際に出来たモデルが正しいのかが分からなかった事です。そんな状態で分析結果を上層部に報告しないといけない。当然、自信を持って報告できず、上層部にも納得感が無かったように思えます。そんな折、AI Academyでプロジェクトの流れを一から学ぶことができ、機械学習モデルの注意点も理解できました。そこからは自信を持って報告できるようになりましたね。
ひとえに「データ分析」と言っても関わる技術は多岐にわたりますので、自信を持って語れるようになるまでには相当な時間を要するというか、地道な学びが必要であると本当に思います。AI Academyはそんな時に丁度良いコンテンツだと改めて認識しました。
北陸電力様の既存ユーザ様の会員離脱予測というテーマについての考察を発表させていただいた事があります。その際、松井さんから「こんな特徴量を加えたら、更に良い精度が出ましたよ」と教えていただいた記憶がありまして、この時点で相当な知識をお持ちだったのだな、と強い印象を受けた覚えがあります。
私も覚えています(笑)。データサイエンスについてはAcademyの中で学習中でしたが、我々は自社のドメイン領域についてはプロです。よくデータサイエンティストに求められるスキルとして「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニア力」と言われることがありますが、ビジネス力の重要さを再認識したやり取りでした。
AI Academyの卒業論文についてもう少し詳しく教えていただけますでしょうか。
私は電力関連業務の運用に関連する二値分類によるターゲット予測がテーマです。大量の過去データではなく、特徴量インパクトの高い直近データを使い、高い精度で予測モデルを作成することができました。
私は時系列の需要予測がテーマでした。それまで人手で予測をしていた時系列問題について10%以上精度を改善し、コスト削減・リスク回避、属人化排除というところを狙ったものです。最終的に目標を達成でき、現場から高評価を頂くことができました。
中長期的な黒字化のために着実に利用拡大・定着を推進
実際に機械学習で業務改善できることを実証した上でDataRobot導入の稟議を上げられたことと思いますが、安いとは言えないこの製品、稟議を上げられた際にご苦労された点はありますか。
先行投資の考え方をいかに正確に周知するか、ですね。弊社の場合、ゼロの状態から私と松井がアサインされ、AI Academyを受講し、DataRobot製品を導入する、といった流れで、元々複数年計画で黒字化させていく考え方で進めていますので、それなりの時間はかかりました。
しかしながら、冒頭申し上げた通り社長を中心とする上層部の理解が土壌にありましたので、そこに助けられ、進められたというのが正直なところです。当時のAI Experienceを中心に、実際に成功されているお客様のAI事例を見て、多くの社内メンバーの深層に、AIはやり方次第で伸びる、盛り上がるという感触があったのだと思います。
いきなり黒字化は求めておらず、AI事業そのものは将来的には拡大していくので、グループ内もそうだし、外販もやっていこうよ、と。その後押しがあったので、本当に恵まれていたと思います。
3年目で単年黒字化、5年目くらいで累積黒字化する計画を立て、稟議を上げています。これまでの経験の中でひとえに「AIの定着」と言っても簡単なものではなく時間がかかる、という点は我々も理解していますし、社内上層部やメンバーも同じ認識です。少しずつ盛り上がりを見せていますので、この種火を絶やさずに、着実に育てていきたいですね。
長期的にご支援をさせていただく中で、NSSOLメンバーに対して期待することなどがありありましたら教えていただけますか。
感謝の一言ですね。寺田さんとの出会いは2018年に遡りますが、北電グループ内における活用テーマの具体提案をきっかけに両社の仲がより深まったと思っています。AI Academyをご紹介いただいたのもそうですし、導入や定着に際しての細かなご質問へのきめ細やかな対応など、我々が困っている時に真摯に対応いただいて、そのおかげで順調に進めることができました。
藤原さんには導入後、いわゆるAIサクセスに向けてというところからのお付き合いになりますが、例えばもっとこんな教育をしたらどうか、とか、更なる人材育成に注力しようという我々の意図をくみ取ってプランを作ってくださったり、ライセンス更新に関して色々相談に乗っていただいたりと、安心して任せられる、頼りになる営業さんだなとつくづく感じています。
DataRobotご導入いただき、社内外でご活躍されている廣野様と松井様ですが、社内の評判はいかがでしょうか。全社的にも類を見ない取り組みで、会社全体から注目されているのではないかと想像します。
私は社歴25年と長いのですが、やはり仲の良い社員からはかなり羨ましがられています。多くの社員が現行の業務を継続する中、我々は先端技術領域を会社の新事業取り組みとして勉強させていただいているので、そういった点が羨ましがられるのかなと受け取っています。
こういった領域を担当すると役員層に報告する機会が増えるので、自然と顔を売れる、というのはありますね。上層部も新しい技術についてはかなり気にされており、社内におけるその領域の第一人者としてかなり認知されてきていると思います。
AI民主化に向け、グループ内のCoE組織としての役割を目指す
最後に、今後の展開方法や将来的な夢について語っていただけるとありがたいです。
やはりAIの民主化ですね。今我々が行っている取り組みは、中核となる情報システム子会社の中の1グループの2名によるものですので、民主化とは少し距離感があると思っています。各事業会社の部門担当自身が自らデータを収集し、解釈し、分析していくというような体制になれば、グループ全体として相当筋肉質になると考えています。我々自身の立ち位置も、現在の分析主担当者という役割から、現場の分析を後方支援するCoE組織的な役割になっていくのが望ましい形であると考えます。
廣野が組織系・人間系の話をしてくれたので敢えてテクノロジーカットでお話しすると、今個人的には画像解析関連に注目しています。DataRobotでは今年4月に構造化データや画像・位置情報を使って透過的にモデルを構築するマルチモーダル機能が実装されましたが、これを使って業務改善を行っていきたいですね。
お話を伺い、テーマの幅が広いという点に改めて驚かされました。廣野様・松井様ご自身のデータサイエンス経験としては素晴らしいものだと思います(色々なテーマの経験を積む、対応できるようにする、という観点で)。
一社でこれだけ幅広いテーマを扱えるという企業はなかなか無いので、是非色々なテーマに挑戦していただき、日本を代表するようなユースケースを確立していただければと思いました。
この場で詳細を書けないのが辛いところですが、実はNSSOLと北電情報システムサービス様の間でDataRobotも活用しながら何らかの価値共創活動を進められないか、という構想があり、広報部門を交えてやり取りを進めているところです。今後上層部同士のやり取りが増えていくと思いますので、是非引き続き続き宜しくお願い致します。