DataRobot導入事例「中外製薬株式会社」(前編)~営業課題をDataRobotの機械学習で解決~

DataRobot導入事例「中外製薬株式会社」(前編)~営業課題をDataRobotの機械学習で解決~

革新的な医薬品とサービスを提供する中外製薬は、営業系領域を中心に機械学習自動化プラットフォームDataRobotを導入した。データサイエンティストのいない営業系部門での機械学習導入にはどのような効果があったのか。DataRobotやNSSOLに対する評価はどうだったのか。

中外製薬の岡村氏(情報システム部 ITプロフェッショナル 副部長)、石部氏(オンコロジー製品政策部 第1グループ プロダクトマネージャー)に聞いた。

聞き手

chugai_thumb_kano.jpg 狩野 慎一郎(かのう しんいちろう)
日鉄ソリューションズ株式会社
ITインフラソリューション事業本部
デジタルプラットフォーム営業部
デジタルイノベーション営業推進グループ
chugai_thumb_jo.jpg 徐 慧娟(じょ けいけん)
日鉄ソリューションズ株式会社
ソリューション企画・コンサルティングセンター

DataRobotのPoCには営業、生産、研究など10テーマが集まった

NSSOL 狩野
DataRobotの正規ライセンス導入が終わり、これから拡大PoC(※1)が始まります。DataRobotの評価はいかがでしょうか。

※1 拡大PoC:導入前のPoC(概念実証)ではなく、正式導入後の社内利用者拡大を目的としたPoC

中外製薬 岡村
いろいろな部署に声をかけたので始めるまでは苦労しました。でも苦労のかいあって皆さんが使い始めようとしてくれている。導入前のPoCには5つの本部が参加することになり、営業、生産、研究などが最後のQA会まで残りました。

岡村氏

岡村 慎吾(おかむら しんご)氏 中外製薬株式会社
情報システム部 ITプロフェッショナル
副部長 

中外製薬 石部
DataRobotの導入前PoC(※2)では多くの部署に声をかけたのですが、一部署から複数のテーマがあがってきて最終的には10テーマにまで増えました。DataRobotがどのようなものか興味を持ってくれた人が多かったのでしょうね。

※2 導入前PoC:正規ライセンスを導入する前段階で実施する通常のPoC

石部氏

石部 竜大(いしべ りょうた)氏 中外製薬株式会社
オンコロジー製品政策部 第1グループ
プロダクトマネージャー

NSSOL 狩野
どのようなテーマだったのでしょう?

中外製薬 岡村
研究系のPoCでは、化学構造式と薬の作用に関するデータ、実際に実験や予測をしたときの過去データを使いました。そのままDataRobotに入れてみたら特に工夫しなくても相当な予測精度が出ていましたね。薬が「効く/効かない」の2値分類問題です。

DataRobotのPoCテーマ「研究系」と「生産系」

生産系のPoCではデータのサンプル数を揃えるプロセスで苦労がありました。ロットが100や200だとサンプルが足りないし、1ロットごとにとっているデータの箇所も多くなかった。たとえば製造流量、温度変化、攪拌数など、製造機械から秒単位、分単位で上がってくるようなデータがあれば相当な数のサンプルを取れる。しかし今回は製造を外部委託している領域を対象としたため委託分しかデータが無く、サンプルが不足しました。生産系テーマはサンプル数さえ揃えられればすごく可能性のある領域だと感じます。

今回のPoCでは、データサイエンティストがいて十分な数のサンプルも持っている生産拠点が業務スケジュールの都合で参加できませんでした。芽があると思っていただけに残念でしたね。PoCと既存業務のスケジュール調整には課題があります。

NSSOLの支援によって営業系業務のPoCでは大きな成功をおさめる

中外製薬 岡村
石部さんのところが成果を出せたのはNSSOLの徐さん達にサポートいただいたからですよ。営業系部門で実施している1年間のキャンペーン数は900ぐらいですが、これだとサンプル数が少し足りなかった。そこで「サンプルが少ないなら増やせるよう工夫をしましょう」とアドバイスをしてくれました。たとえば同じ変数でも今年、去年、一昨年、といったように時期をずらすとサンプルが900から2,700になりますよね。こうした工夫で予測精度がぐっと良くなりました。

中外製薬 石部
ほかに「まずDataRobotで軽く分析をしてからデータを追加していきましょう」というアドバイスも頂きました。地区コードが効いていると分かれば「地区ごとの違いがもっと出るように項目を追加する」といったことを試したところ結果に”立体感”が出ました。

DataRobotの分析結果に立体感が出た

中外製薬 岡村
営業系はサンプルが少ないと言いながらもデータはしっかり持っていて、しかもローデータに近いものがあった。今回のPoCでは、粒度が細かくて丸められてもいない生に近いデータがあって、今まで表計算ソフトでデータ分析をしていた人がPoCに参加していた。そしてデータサイエンスに知見のあるNSSOLの徐さんたちが横についてコンサルしてくれていた。やはり、この領域はデータサイエンティストが命だなと思います。

データがあって、データを扱っている人がいて、データを業務目的で使いたい人がいて、そしてデータサイエンティストがいて、という組み合わせが絶対必要。これが揃ったのが石部さんのところ、だから成功したんですよ。

DataRobotの導入は予算取りが最初のハードル

NSSOL 狩野
DataRobotの導入には苦労もあったと伺っていますが、導入時の状況について聞かせてください。

中外製薬 岡村
以前、営業系データの分析を営業支援グループと一緒にやったことがあります。しかし相当な分析スキルがないとデータから結果を浮かび上がらせることは難しい。専門家に依頼して何回かやりとりして、半年ぐらいでようやく分析が1つ済むような感覚です。しかも時間をかけたからといって思うような結果が出るとは限らない。

データサイエンティストが横にべったりつかないと営業系の人達が求めている結果は出ないと痛感していました。ところがDataRobotは持っているデータをありったけ並べて投入すれば自動でモデルを出してくれる。比べ物にならないほど簡単でした。

これはいいということで営業系に入れようと考えました。最初は営業系にしか紹介していなかったんです。しかし営業系だけでなく研究系や生産系など複数部門から利用要望が上がったため、全社のIT予算で購入しようということになりました。

NSSOL 狩野
一般的に研究部門や生産系部門の方々はこの領域における情報感度が高く、自分達でDataRobotのような製品を見つけてくることがあります。ところが、こういった部門はコスト削減がミッションであることも多く、なかなか経営を説得できない。それで営業部門にも声をかけて一緒に予算を上げることもあるようですね。

DataRobotの予算をどう取るか

中外製薬 岡村
多くの部署が関わってくると”営業部門の中でやりくりをして費用をねん出する”というやり方ができません。営業で購入するなら石部さん達やマーケティングのマネージャー、営業業務系の予算を管理している人が「DataRobotいいね」となれば導入できる。 しかしDataRobotの導入は全社IT予算になったので、どのように予算を確保するのか、その調整に苦労することとなりました。IT投資委員会のような会議体への付議も必要になりました。最終的には情報システム部が一括で予算を確保し、PoCの実施、正規ライセンスの導入、そして現在進行中の拡大PoCも実現できました。

DataRobotとほかの機械学習ツールは比較できない

NSSOL 狩野
機械学習のツール、製品はほかにもあります。製品同士の比較はされたのでしょうか。また、どのような点でDataRobotが選定されたのでしょうか。

中外製薬 岡村
比較できませんよ。メガグラウドのマシンラーニングは試しましたがDataRobotほど簡単ではありませんよね。自分でアルゴリズムを選択しないといけないツールは導入が難しい。

DataRobotとほかのツールは比較できない

中外製薬 石部
DataRobotを初めて見た瞬間「これは革命が起きる」と感じました。営業系の私たちでも簡単に利用できると思えたのです。表計算ソフトベースでやってきた業務の延長で使えた機械学習ツールは今のところDataRobotだけ。行列データを用意してターゲット変数を明確にすれば、ある程度の結果が出てくる。こんなツールはほかにありません。

NSSOL 徐
モデリングをやるようなデータサイエンティストはいなくても、データ収集や整形をやっている方はいらっしゃいますよね。

中外製薬 石部
そう、データを扱っている人は営業系の部門内にも結構います。しかし機械学習の知見はなく、Pythonでモデリングした経験もない。統計処理に慣れている人間もいません。それでも使えたのがDataRobotでした。

中外製薬 岡村
営業系部門にはデータサイエンティストがいないこともあり、PoCをやっても結果を出すのは難しいだろうと懸念する声はありました。NSSOLの方も営業系テーマは難易度が高いとおっしゃっていましたよね。でもそんなことは無いと私が言ったんです。「データはあるんだ、データを分析している人もいる、結果は出るはずだ」って。

社内を見渡せばデータサイエンティストはいます。でもそれは医薬品の開発部門や調査部門であって営業系に出てきてくれるわけではない。でも営業系の人たちが表計算ソフトを使って相当なことをやってきたことを私は知っています。DataRobotのようにデータサイエンティストでなくとも使える便利なツールが出てくれば、きっと有効に活用できるんじゃないかと感じました。

DataRobotの価格に納得。費用対効果は期待できる

NSSOL 狩野
DataRobotの価格は決して安くありません。費用対効果という点ではどうでしょうか。導入による費用対効果は上申の際にも説明されたと思うのですが。

中外製薬 石部
正規ライセンスの導入や拡大PoCの予算を取る際は「費用対効果はまだ断定できない」といった説明をしています。導入前のPoCで成功例は出てきました。ここからさらに費用対効果を正確に測るために拡大PoCをやっていく、という認識です。

DataRobotの費用対効果をどう考えるか

DataRobotの価格や費用対効果の考え方ですが、私たち営業は様々な形の販促費用を使います。なかには数%改善するだけで大きなインパクトを期待できる領域もある。非常にざっくりとした机上の計算ですが、ある程度まとまった費用がかかる案件のROIをDataRobotで1%でも改善できるとするなら、DataRobotの費用は十分ペイできると考えています。

また、私たちがずっと壁にぶつかっていて困っていたマーケティング課題を解決できるんじゃないか、という点での費用対効果もあると思っています。営業系テーマの一つに「施設別の製品売上予測」があります。DataRobotで予測してみたところ、製品の市場規模やMRの面談数といった、我々の肌感覚に近い部分を客観的に数値化できました。さらに、実はこんな項目が効いている、という驚きの特徴量を発見することもできました。ほかのテーマでも既存の課題を解決できる兆しが既に見えていますし、予算投資が上手になればDataRobotの費用はペイできるだろうという感覚があります。ただ、それでいくらになるか、価格に見合うのか、といわれると正確な回答が難しいため拡大PoCをやるということです。

DataRobot導入が社内でも評判になり、AI知見者としてデジタル領域の戦略検討メンバーに加わったことも

NSSOL 狩野
DataRobotを導入したことに対する社内・社外の評価、評判はどうでしょう。DataRobotを導入されたお客様からよく伺う話として、導入部門が社内で有名になって仕事が集まってきたり、利用者自身が社内の有名人になったり、といった例もあります。

中外製薬 石部
それに近いことは起きています。2018年11月のAI Experience 2018 Tokyoに登壇した時がまさにそうで、イベント後に社外の方から協業などに関する様々なお話を頂くことができました。実際に現在動いているプロジェクトもあります。PoCの説明会後には、社内からDataRobotにとどまらずAIのことで相談にのってほしい、という話もありましたし、デジタル領域の戦略検討メンバーに加わったこともありました。データの利活用やAI関連の色々な話が私のところに来ている状態です。

中外製薬 岡村
DataRobot社とNSSOLで調整してくれているテーマ設定のワークショップにも40数名が参加します。社内でも興味を持ち始めている人は相当増えてきたのではと思いますね。

中外製薬 石部
「おもしろそうなことをやっている」という評判がある一方、逆に「難しいことをやっている」と思われることもあります。私が設定している分析テーマが難しいものなのかもしれませんが、どちらかというと”こういうもの”に対して過剰に期待する人がいたり、過剰に批判的な人、自分には関係ないと思う人、すぐに難しいと思う人がいたりしますよね。結構両極端な印象です。

中外製薬株式会社
中外製薬株式会社
本 社:
東京都中央区日本橋室町2-1-1
設 立:
1943年
資本金:
732億200万円(2018年12月31日現在)
営業収益:
5,797億8700万円(2018年12月31日現在)
本 社:
従業員数:7,432人(2018年12月31日現在)

※記事内容は掲載当時のものとなっております。

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