DataRobot導入事例「三菱UFJ信託銀行」~「信託×AI」でお客様の課題を解決するプロフェッショナル集団を目指す~
三菱UFJフィナンシャル・グループの中核企業として、信託銀行ならではの機能と高い専門性を発揮し、幅広い領域に及ぶ金融ソリューションを総合的に提供する三菱UFJ信託銀行株式会社(以下「MUTB」)は、AIによる顧客課題の可視化やコンサルティングの高度化・汎用化を目的にDataRobotを導入した。DataRobotやNSSOLに対する評価はどうだったのか。MUTBの岡田氏、中嶋氏、中野氏、伊東氏に聞いた。
聞き手
金融ソリューション事業本部 業務系ソリューション事業部
業務系システムエンジニアリング第四部
金融ソリューション事業本部 業務系ソリューション事業部
業務系システムエンジニアリング第四部
プリンシパル
ITインフラソリューション事業本部 営業本部 デジタルプラットフォーム営業部
デジタルイノベーション営業推進グループ
事業部が起点となって顧客課題を解決する「AIプラットフォーム」を探していた
まず、DataRobotを導入された背景について教えてください。機械学習ツールも最近増えてきましたが、どのような理由で選定されたのでしょう。
業務IT企画部 業務ITソリューション室 FinTech企画グループ
調査役
当社では、社会・お客さまの課題を解決できるプロフェッショナル集団の実現に向けて、全社デジタル化の一環としてAI分野に注力しています。
信託銀行でAIが適用できる業務は「マーケティング」「コンサルティング」「市場予測」「事務自動化」の4業務に大別できると思っています。
信託銀行の特徴の1つとして、商品構成が少量多品種であることが挙げられます。
私は前職が銀行協会で働いていたので、400以上の金融機関のカウンターとして様々な金融機関を見てきましたが、これだけ専門性に富んだ商品ラインナップを揃えている金融機関は当社だけだと思います。
当社の最大の強みは、各事業部で長年培った信託業務のノウハウが蓄積されているということです。こうした利点を生かすために、事業部が起点となってビジネス課題を解決できる仕組み作りをし、専門家のノウハウをAIに移植する「AIプラットフォーム」が必要だと強く感じていました。データ分析系のツールは多数ありますが、最もユーザーフレンドリーで全社展開に向く製品はどれか、という観点で選んだのがDataRobotでした。
初めから全社展開を視野に入れての選定だったのですね。
そうです。ほかにも候補がありましたが、データ分析ツールの多くはユーザー部門で使おうとすると難しいです。今回選定しなかった製品の中には、取扱いが簡単なツールもありましたが、そういったツールを入れると機能が限定され、利用部署が限られてしまい、逆に全社展開が難しくなりそうだと考えました。ユーザー部門にとって使いやすく全社展開にも向いている、という境界線上にあったのがDataRobotでした。
ROIの検討や機能比較などはされたのでしょうか。たとえば〇×表を作って比較するなど。
機能面ではマトリクス表を作りながら比較検討しました。10製品近くの機械学習ツールを比較してDataRobotに決めています。
幸い、三菱UFJフィナンシャル・グループの中期経営計画の構造改革の柱で「デジタライゼーション戦略」を掲げているとおり、全社的に先端技術の活用を推進していたので、上からも「まずやってみよう」と後押しをしてもらえたので、製品決定~導入は僅か1か月というスピード決定でした。
DataRobotを使うと“できないこと”がすぐにわかる
DataRobot導入後に様々なテーマを試されていますよね。うまくいったテーマもあれば課題を残したテーマもあると思いますが、いくつか教えていただけますか。
経営管理部 市場リスク管理室
調査役
元々、金融マーケットの予兆管理に機械学習を使いたいというニーズがありました。当初はRでモデリングしようと思っていましたが、ちょうどDataRobotが導入されたことを知って試してみました。いくつかの指標の予測を試みたのですが、例えばETFの値動きの予測は、予測対象自体の動きが速すぎて、うまくいきませんでした。これはDataRobotの何かがどう、というよりも回帰モデル故の難しさだったと思っています。次のテーマ選定するときに生かせるノウハウになったと思っています。
「できないことが分かる」ことは非常に大切なことです。スクラッチ開発でうまくいかなかった場合、「どこがダメなんだ!?」と思い悩みながら色々なハイパーパラメータを変えたり、前処理を工夫したりして試行錯誤を長期間繰り返すことがあります。ところがDataRobotなら簡単に何パターンか試せるので短い時間で予測に向くテーマかどうかが分かります。
「これは良いテーマだ」となれば、DataRobotでもっと精度を上げてもいいし、場合によってはスクラッチで開発してもいい。思いついたアイデアを軽く試すことが簡単にできるのはすごく便利です。
早いスピードでモデル作成→検証→チューニング→......のサイクルを回せるのはすごくいいですよね。スクラッチなら担当者が何か月も張り付いて1モデルできたらよしというところ、DataRobotならデータセットさえあれば1日に何十モデルもサイクルを回せる。しかもあの精度と速度でハイパーパラメータをチューニングすることは人ではできません。DataRobotが作ったモデルを見て勉強して、スクラッチで書くときに「あ、こうやるんだ」という気づきを得るきっかけにもなっています。従来から行っているリスク管理と組み合わせた使い方を少しずつ試していきたいと思っています。
営業の“勘”や“経験”がAIで立証、営業の効率化に寄与
リテール企画推進部 企画グループ
調査役補
クロスセル・アップセルのようなマーケティング領域では、お客さまから得た情報を基に適切なタイミングで適切な商品をアプローチする必要があります。これまでは営業担当者の勘と経験でやっていた領域ですが、DataRobotを活用することで定量的に適切なタイミングで商品をご提案できそうだと感じています。
DataRobotの分析結果に表示される特徴量をみて「あ、やっぱりそうだよね」という思うこともあれば「そういうことも意外とポイントなんだ」という新しい気づきも何度かありました。新しい気づきについては営業現場にうまく還元し、営業の効率化を進めてほしいと思っています。
一口に“ご提案すると喜んでくださるお客さま”といっても、タイミングが重要です。これまでは営業担当者がお客さまを個別にみて分析していたのですが、どうしても時間がかかりますし、機会を逸することもあります。しかしDataRobotなら多数の複合的要素を短時間で分析して数値化できるので、お客さまのコンディションを考えるという重要なプロセスを省略することなく営業を効率化できると考えています。
実際にいくつかの営業店で使っていただいていますよね。たしか試行をはじめて2か月目ぐらいだったでしょうか。効果のほどはいかがでしょう。
3店舗ぐらいで試行いただいています。効果の実感まではもう少しというところでしょうか。私たち支援チームの調整不足もあるのですが、営業店には様々な「~リスト」が山のようにありまして、いまはその一つという見方をされているかもしれません。でもAIというワードにはすごく飛びついてくださっている感覚はあります。流行りものですし「こんなことを会社でやっているんだ」と感じてくださっているようです。
DataRobotで分析し、ある商品に関心をお持ちだろうと予測した方で、実際にその商品を前向きに検討いただいたケースもあります。これは非常に有用な使い方ができたケースではないでしょうか。
リテール企画推進部 企画グループ
調査役補
リテールには非常に多くのお客さまがいらっしゃいますから、多数(数百の変数)の特徴量を入れて分析することは当部のスキルでは不可能でした。難しい分析ができ、かつ結果も出たので有意義だったと思います。また「なるほど、こういうデータを入れるとこういう結果が返ってくるんだ。」という非常に面白い気づきもあったと思っています。
実際に使ってみて、勘と経験と照らし合わせてもこの結果は合っていた、実はこんな特徴量が効いていた、というような事例があれば教えてください。
例えば定期預金の満期や普通預金にご資金をお預入れいただいているお客さまは、比較的投資商品の提案に興味をお持ちになる傾向はあると認識していましたが、改めてDateRobotで分析するとやはり同じ結果を得られ、今までの勘と経験が立証されました。
アパレルや小売の新商品の購買予測とは違い、ある程度数値として表現できる投資信託商品は過去の傾向とリンクさせやすいのかもしれませんね。
データドリブンでお客様の課題を可視化、ライフプランの提案に活かす
リテールの商品というのはお客さまのライフサイクルに合わせているので、ものすごく多品種です。「このお客さまの課題は何か?」とお客さま視点に立って、お客さまに寄り添って最適なライフプランを提案していく、その手段としてAIを活用することが大切だと思っています。
そのための第一歩として、時期的には遅くなるかもしれませんが遺言信託の分析などもテーマとして挙げていきたいと思っています。
遺言信託という商品には様々なニーズが隠れています。たとえば不動産や金融資産をどのような考え方で、どのようにご家族に残していきたいのか、ご本人の考えが見えてきます。様々なニーズが隠れている領域ですのでDataRobotの分析テーマとしてはいいかもしれませんね。
伊東様もリテール部門ですが、DataRobotを使ってみた感想はいかがでしょう。
元々私はデータ分析というよりはデータ加工の仕事をしていました。はじめはDataRobotって何?どう使うんだろう?という感覚でしたが、NSSOLの方に色々と教えていただいたり、研修に行ったりして「今までは表計算ソフトで一生懸命計算していたけど、これからはDataRobotで使ってみよう。」と思えるようになりました。まだ中嶋のような使い方はできませんが。
いやいや、私も髙見澤さんに全部教えてもらったんですよ(笑)。
DataRobotの費用をペイするには全社展開が鍵になる
DataRobotの価格についてはいかがでしょうか。決して安価な製品ではないと思うのですが。
価格的には安くないですよね。ですからテーマを選ぶときはビジネスインパクトを出せるかどうかを最初に見る必要があります。ROI(費用対効果)だけを見て1部署や2部署で使うだけだったら導入しない方がいいかなと思っています。全部署でAIを使ってサービスの高度化・汎用化を図る。その中心にDataRobotがあるんだ、という考え方です。これなら既存案件だけでも2年後にはROIが立つのではないかと考えています。
DataRobotのような「機械学習のプラットフォーム」の技術領域は、今後3年で非常に伸びる領域だと考えています。反面、今はブルーオーシャンの市場かもしれませんが、3年後はきっとレッドオーシャンになっているはずで、その時にどういう価格体系になっているかには関心があります。他の製品が価格を下げてくるとDataRobotから乗り換えるところも出て来るかもしれませんが、その時にDataRobot含め「機械学習のプラットフォーム」の市場全体がどのような変化を遂げるか楽しみです。
地道な作業にも真面目に取り組むNSSOLだからパートナーに選んだ
DataRobotから少し離れてNSSOLの話をさせてください。技術的な支援も含めてNSSOLの対応はいかがでしたか?
「いやもう、すごく助かっています」というのが関係者全員の意見ですよ。
データ分析は真面目かつ寄り添ってくれるパートナーでないと絶対にうまくいかないと思っています。AIをやるというと派手で華やかだと勘違いされますが、実際にはビジネス上の課題を定義して、データを収集して加工して、地道な作業がたくさんありますよね。DataRobotを渡されたからといって、こんなことがすぐにできるユーザーなんてそういません。だからこそ当社の社員に寄り添って、こういう作業にも付き合ってくださるパートナーが必要だと強く感じていました。
実は前職でもNSSOLと仕事をしていたことがあり、その時もすごく真面目に対応をしていただきました。だからNSSOLが希望に合っていると思っていたのですが、髙見澤さん、楠戸さん、大西さん、黄倉さんは期待以上に支援して下さっていて、本当にすごく助かっています。
新しい情報や便利な手法は世の中にたくさんあるはずですが、私は「これしかないから、これで頑張って」と言われて業務にあたってきました。NSSOLはそんな私に新しい世界への扉を開いてくれたと思っています。業務的にもですが、個人的にも面白いと思える知識を頂けて、岡田と同じく私も本当に助かっています。
髙見澤も楠戸もズバッと言い過ぎませんか?リードしているとも言えるかもしれませんが。
できないことをできないと言ってくれるところはありがたいです。NSSOLのメンバーは実行する前から「これは難しいので、やめた方がいいですよ」と言ってくれたり、違うやり方を提案してくれたりしますよね。
そうですね。やる前には必ず「本当にやりたいですか?」という話や「難しそうですけどやります?」という話をしてから取り組むようにしています。
社内から案件を募るには社内向け広報戦略が重要
MUTB様の中での評判はいかがでしょうか。認知度の状況など教えていただければ。
社内では少しずつ認知されてきたというところです。以前はAIをどう業務に適用するのかイメージがつかない人が多かったのですが、最近は「AIを使った新商品を検討したい」「AIをこういう使い方をすれば効率化すると思う」など、具体的な相談をしてくれる人が増えてきました。
行内展開のための施策を打たれていますよね。
一つ目は、年に3回発行されている社内報への掲載です。全社の幅広い人が見る媒体で、ここからの問い合わせは3件あり、ユースケースとして成立したのが経営管理部の案件です。中嶋が「社内報を見たんですけど」と声をかけてくれました。
二つ目は、社内イントラネットのトップ画面への掲載です。そこにDataRobotを告知するための動画を載せました。載せるだけだと弱いと思い、説明会とセットでやったのですがすごい反響でした。2回開催して60名が集まり、そのうち40名以上からは案件化について相談がありました。もしこれが1年前だったら4~5人ぐらいしか集まらなかったかもしれません。AIに対する注目度の高まりを感じます。
社内展開に成功されるお客さまには共通点がありますね。同様に社内告知して、やる気のあるメンバーを集めて、横断的なチームを作って推進していく、というやり方で成功されているお客さまはほかにもいらっしゃいます。
岡田に問い合わせた後、役員向けに「こんな予兆管理ができました、これから使います」と、DataRobotのロゴも入れて資料を作ったのですが、あまりにキャッチー過ぎたようで「なんだこれは!?」という照会がたくさん来ました。一時的に大変なことになったのですが「そこだけではなく周辺のここも見た方がいいんじゃないか」というような意見をくれる役員もいて、AIやDataRobotって何か人を惹きつけるものがあるんだと感じました。
「信託×AI」の可能性は無限大、お客様の課題を解決するプロ集団を目指す
今後の活用について教えてください。DataRobotを活用してAI民主化を推進している企業が国内でも出てきています。
私が考えているのは大きく2つです。1つ目は、お客さまの課題をAIで可視化すること。2つ目はコンサルティング業務の高度化と汎用化です。
この2つが、DataRobotといいますかAIでやりたいことです。
1つ目は、マーケティングに近い考え方で、従来、お客様の課題認識は人の勘と経験に頼って読み解いていました。
しかしながら、これからの信託ビジネスではお客様の課題を「早く」「正確に」捉えることができるかが重要です。
そのためには、リテールであれば顧客情報や取引データ等を、法人であれば財務情報やマーケット情報等をクロス分析してお客さまでさえ気づかない潜在的な課題を捉え、先回りして提案することが重要で、そのためにAIやデータ分析が必要です。
2つ目のコンサルティング業務については、従来、人手でやっていたコンサルティングノウハウの一部をAIに移植することが重要です。
そのことにより新しい気付きをAIがもたらし、商品が「高度化」することはもちろん、これまで人手でしか提供できなかったので、限られた一部のお客さまにしか提供できていなかったコンサルティング商品の一部を、たとえば一部上場企業2,000社に提供する、といったことも可能になっていきます。
このサービスの「高度化」と「汎用化」をAIを使って戦略的に進めていきたい、そのために今はまず小さな成功を積み重ねている段階、と考えています。
リテール部門様はすごく大きな夢を描かれていますよね。
銀行が伝統的な銀行業務だけで生き残るのは厳しい時代ですが、私たち信託銀行は遺言信託や不動産など信託独自の取り扱い商品があります。ここにAIを導入することで、もっと様々なお客さまに信託の機能を広めたい、使ってほしいという想いがあります。
これから運用が始まるフロント部門の人たちが使っていけば、DataRobotの知見がもっと社内でシェアされると思っています。DataRobotユーザー同士で共通認識をもって情報交換をしていくような使い方をしていきたいです。
岡田様は全部門の主要な部署でDataRobotのユーザーを作って、その方々自身がDataRobotで業務を回していけるようにしていきたいという気持ちをお持ちですよね。今はそのサポートをNSSOL主体でやっているのですが、DataRobotを教えられる人材も社内に作っていって、AIの内製化や民主化を進めていこうとされています。
最後にNSSOLや支援メンバーに対して期待することがあれば教えてください。
もう120%ぐらいやってもらっているので...今後も一緒に「信託×AI」で信託ビジネスを一緒に変えていきたいです。
ありがとうございます。支援メンバーも頑張っていますので、今後も引き続きよろしくお願い致します。
三菱UFJ信託銀行株式会社
- 本 社:
- 東京都千代田区丸の内1丁目4番5号
- 設 立:
- 1927年3月10日
- 資本金:
- 3,242億円(2019年3月末)
- 従業員数:
- 従業員数:6,457人(2019年3月末)
※記事内容は掲載当時のものとなっております。