工場における安全対策の必要性―デジタルを活用した安全対策とは

工場における安全対策の必要性―デジタルを活用した安全対策とは

ビジネスの現場では、常に事故発生の可能性が潜んでいます。モノ(製品)を生産する工場も例外ではありません。事故によって失われるものは多く、企業は安全対策に特に力をいれていかなくてはいけません。

安全対策を万全にするためにはどうすればよいのでしょうか?まずは、なぜ安全対策が必要で、どのようなことが原因で事故が起きるのかをしっかり把握することが大切です。そのうえで、安全な職場づくりのためのルール作成や環境整備をする必要があります。

今回は、安全対策の意義や目的を説明したうえで、具体的な対策と、デジタルを活用した安全対策についてご紹介します。


工場における「安全対策」の意義・目的

工場には、重量物や人を巻き込む危険性がある機器、触れただけで人体に危害をおよぼす薬品などがあり、多くの危険が存在します。製造の工程に必要不可欠なものばかりですが、取り扱いを一歩間違えると重大な事故につながります。

各工場では、安全対策のためにさまざまなルールを設けているでしょう。こうしたルールは、作成にも実施にも手間がかかり、決められた手順も多く、わずらわしいと感じる作業者もいるかもしれません。しかし、ルールを順守することは、安全対策と同時に作業効率の改善にもつながります。

例えば、安全対策として作業環境の整理整とんを実施することで、ヒューマンエラー防止と作業効率改善の両方を実現することが可能です。

労働安全衛生法の概要

職場の安全を保つために定められた法律があります。それが「労働安全衛生法」です。
労働安全衛生法第1条に、その目的が以下のように定められています。

「労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする」

労働安全衛生法では、安全衛生体制のための決まりが設けられており、危険物や有害物の規制、従業員への安全教育や、職場の責任者の任命などについて細かく規定されています。企業は労働安全衛生法を順守して適切に衛生管理を行う義務があるのです。

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なぜ事故が起きるのか

いろいろな安全対策をしていても、事故は起きてしまいます。では、なぜ事故は起きるのでしょうか?要因はいくつか考えられますが、ここでは代表的な原因を3つ紹介します。

ルールの周知不足

安全対策のために各工場ではルールが設けられていますが、ルールは守られて初めて効果を発揮します。どんなに効果的なルールでも、従業員一人ひとりが認識していなければ意味がありません。また、ルールを知っていても、それを守ることにどのような価値があるのかを知らないため、ルールが順守されないことも考えられます。職場にはどのようなルールがあり、なぜルールを守らなければいけないのか、職場にはどんな危険があるのかなどを従業員に理解させなければなりません。そのためには、従業員教育を通じて、工場で働くすべての人間にルールの意味を周知する必要があります。

職場の環境

労働災害のうち、ヒューマンエラー(人が原因となる失敗)で発生する災害の割合は多大です。健康な状態のときでもうっかりミスはあり得るうえ、疲労によりストレスがたまると、ヒューマンエラーの発生率は上昇します。肉体的な疲労による意図しないミスもあれば、精神的な疲労による判断ミスからルールを軽視し、事故につながるケースも見受けられます。

ほかにも、従業員同士の連携不足が事故につながるケースもあります。「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)をできる環境がなく、有事の際に連携がうまくいかず事故対応が遅れてしまうのです。また、ひとりの目では見落としてしまう小さな危険性も、複数人のチェック体制で見落としを防ぎ、職場内で支え合う環境づくりが大切です。

メンテナンスなどの管理不足

毎日使う機器や設備などは、部品の消耗も激しくなります。ひとつの部品が壊れただけで機械が動かなくなることもあります。一部の故障が大きな事故につながるおそれもあることを念頭に入れておきましょう。機器のメンテナンスは、作業を円滑に進めるだけではなく、もしもの事態を未然に防ぐ役割も担っています。

「ヒヤリハット」という言葉があります。1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故があり、さらに300件の災害につながらない軽微な事故があるというものです。小さな事故でも、それが積み重なれば大きな事故につながります。日ごろから、小さな違和感を放置せず対処していくことが、大きな事故を防ぐことになるのです。

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工場に潜む危険の種類

工場作業の事故の種類はさまざまですが、いくつかに分類できます。具体的な危険の種類と、実際に起きた事故の例を見ていきましょう。

転倒事故

厚生労働省発表による「令和3年労働災害発生状況」によると、休業4日以上の死傷者数における割合では、転倒事故が令和3(2021年)年で33,672人、全体の23%ともっとも多くなっています。

転倒は、日常でもよく起こりえる事例で大したことがないと感じるかもしれません。しかし、転倒場所が固いコンクリートの地面であれば大けがにつながりかねません。工場では、転倒を防ごうとつかまった先の機器に巻き込まれるという重大事故が発生する危険性も考えられます。

転倒事故による具体例のひとつとして、はしごから降りた際、地面に落ちていた部品に足がのり、それがもとで転倒しねん挫したというケースがあります。

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例「脚立から降りる際、片足を着地したところ、地面に置いてあった別の部品の上に足が乗り、足を滑らせた」

この例は、職場の整理整とんがなされていれば、地面に不要な部品が落ちていることもなく、十分に防げた事故といえます。加えて、脚立の使用を慎重にすることの意識や教育が徹底されていなかった面も事故の要因と考えられます。

墜落・転落事故

工場では、高い場所での作業や脚立の昇降、高い段差などで墜落・転落の危険性があります。さほど高くない場所からの転落でも、打ち所が悪ければ死亡につながることもあります。転落を防ぐことも大切ですが、万が一の転落に備え、保護具を手順どおりに着用することを徹底させて被害を最小限に防ぐことも有効です。

墜落・転倒事故の具体例としては、高所にある空調設備の検査中、脚立使用時の安全確保が不十分だったためバランスを崩して転落し、死亡事故につながったケースがあります。

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例「天井クレーンを用いて完成検査中、玉掛け作業者が脚立上から転落し死亡」

この例では、高所作業中の墜落防止のための床や手すりなどの設置がされておらず、作業者が保護具を着用していませんでした。墜落、転落の可能性がある作業では保護具の着用を徹底させることはいうまでもなく、高所作業中の墜落防止措置を講ずることが第一の対策となります。

はさまれ、巻き込まれ

作動中の機械に潜む危険性は多くあります。はさまれ、巻き込まれ事故はその代表例です。機械の力は大きく、人の力では対抗できません。少し巻き込まれただけで、大きなけがにつながります。機械の危険性を認識し、正しい手順で機械を動かす、確認を怠らない保護措置を講ずることが必要です。

はさまれ、巻き込まれ事故の具体例としては、プレスブレーキを作動中、目視確認を怠ったために従業員の腕が挟まれたという事例があります。

出典:厚生労働省ホームページ 職場のあんぜんサイト:労働災害事例「共同作業者が、目視確認を行わずにプレスブレーキを作動させ、被災者の腕がプレスブレーキの金型にはさまれた」

作業は複数人で行うことが多くあります。危険な機械が作動中は常に周囲の状況を把握し、自分だけではなく周りに危険性がないか確認し、作業を行うことが必要です。また、危険箇所があれば、はさまれ、巻き込まれを防止するための保護措置も講ずる必要があるでしょう。

安全対策のための具体例

工場における事故の危険性は十分にわかっていても、防止するためには具体的にどのような対策を講じればよいのでしょうか? 具体例をご紹介します。

5Sの推進

5Sという言葉があります。これは、整理・整とん・清掃・清潔・しつけの5つの頭文字を取ったもので、工場の安全対策における基本とされます。各項目について見ていきましょう。

まず、整理整とんを実施することで作業場から不要なものがなくなり、転倒の危険性をなくします。不用意に置かれたものが機械に巻き込まれ事故につながるといったケースも防止できます。清掃を実施し清潔感を保つことは、従業員のストレス減少やモチベーション維持につながり、ヒューマンエラー防止に一役買うでしょう。そして、なによりも大切なのが、こうした行動を徹底・習慣化すること(しつけ)です。安全対策を実施するには、従業員一人ひとりの心構えが欠かせません。ルールはなぜ守らないといけないのか、職場の安全を守るにはどうすればよいのかを従業員に説明し、周知することがなにより安全へとつながります。

安全訓練の実施

日ごろの備えとして、事故が起こったときに備えての訓練をする必要もあります。頭ではわかっていても、実際の場面ではなかなか想定したように動くことはできません。日常的に事故の状況を想定し、事故発生時にはどのように動けばよいか、危険に巻き込まれないためにはどうすればよいかを学び、訓練によって慣れておく必要があります。

安全対策のルールづくり

どうすれば安全に作業ができるのかを詳細に定めたルールを作成します。ただし、ルールを作成すれば安全対策になるのではありません。重要なのは、従業員一人ひとりに対してルールの周知を徹底し、そのルールが必要な理由を理解させることです。

ルールが増えると、やるべきことも増えます。面倒くさいという気持ちが少しでも入ると、ルールを軽視しがちになります。個々のルールが定められた意味や必要性について、各従業員が自ら考え、重要性に気づけるような教育が実施できれば理想的です。

デジタル化を活用してより安全な職場へ

基本的な安全対策をしても、けっして万全というわけにはいきません。念には念を入れることが重要です。人の力だけでは限界がある部分も、デジタルツールを活用すれば実現できる部分は多くあります。実際に行われている、デジタルを活用した安全対策について紹介します。

作業現場の可視化

職場に潜む危険は、目に見えるものだけではありません。目視での確認が難しい危険への安全対策にもさまざまなものがあります。

物理的な対策としては、見えやすい文字や色での警告表示や、通路の見えない部分へのミラー設置などがありますが、デジタル化によってさらに対策を強化できます。

例えば、危険な場所に監視カメラを設置し、さらにAI(人工知能)を導入する方法です。監視カメラを設置しただけでは、映像の確認は人の目に頼ってしまいますが、AIを組み合わせれば、人の目が見落としやすい危険をAIが高精度で自動的に検知します。危険に対して注意を促し、迅速に対策をとれるようになるのです。特に、危険箇所が多い場合は人だけでは限界があるでしょう。AIを導入した監視体制によって、最小限の労力で24時間、危険に対する措置を講じることが可能です。

作業人員の状態可視化

危険箇所だけではなく、従業員の健康状態を可視化することも重要な安全対策です。従業員の健康状態を把握することは簡単ではありませんが、体調不良で作業を続けることはヒューマンエラーを助長し、事故につながりやすくなります。

デジタルを活用した対策として、スマートウォッチによる従業員の健康状態の把握があります。

具体的には、温度や湿度などを検知し、熱中症予防のための注意喚起をする、脈拍から眠気や疲労を感知し、不慮の事故が発生する前に適切な休憩を促すなどが可能です。従業員の適切な体調管理には可視化が欠かせません。

事故のデータ蓄積

さまざまな要因が重なって事故は発生しますが、傾向が似かよった事例が多くあります。事故防止には、過去に起きた事故をデータとして蓄積し、なぜその事故が起きたのか(原因)、どうすれば防げたのか(対策)を把握することが極めて重要です。

蓄積された膨大なデータの解析には、AIも大きな力になります。膨大なデータから適切な対処をAIが判断し、事故の原因の特定や再発防止対策を見えるかたちで提示できます。

日鉄ソリューションズが提供する「現場作業員向け 安全見守りくん」では、ウェアラブルデバイスの活用により、従業員の状況をいち早く検知し、事故発生時にも素早い対応を可能にします。事故の未然防止や再発防止策を講じる際にも役立ちます。

デジタル化とともに、安全対策を

工場の事故は、想像する以上に大きな問題につながりかねません。工場を操業する限り、事故ゼロ化への努力が必須です。事故のない安全に配慮した職場であれば、従業員も安心して働けるため、工場の生産性を大幅に改善することにつながります。紹介した「安全見守りくん」のようなデジタルソリューションを活用し、効率的で高精度な安全対策を行いましょう。