電子契約の場合、本当に印紙税を払わなくてよいのか? | 電子契約
日鉄ソリューションズ株式会社
斎木康二
監修 宮内・水町IT法律事務所 弁護士 宮内宏
(2021年9月28日更新)
電子契約の場合、印紙税は不要か?
電子契約の導入をご検討中のお客様から必ずでてくるのが、
「電子契約にすると本当に印紙税を払わなくていいの?」
「後から支払えと言われたら困るけど、大丈夫なの?」
といった質問です。確かに導入を主導する部門の方にとって印紙税がいるかいらないかは大変コストインパクトが大きいので、一番の心配ごとのようです。
印紙税法第××条「電子文書は課税文書にあたらない」などといった法律がどこかにあれば手っ取り早いのですが、残念ながら電子契約に印紙税がかからないことを明記した法令はどこにも見当たりません。では何を根拠に印紙税がかからないと言えるのか、その理由を考えていきましょう。
印紙課税の根拠となる法律
これを考えるにあたって、まず最初に「印紙税を納めなければならない理由」について調べてみます。当たり前ですけど、これは法律にしっかり明記されています。
印紙税法 第2条 「別表第1の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。 」とあります。ついでに、別表第1をみてみると、「課税物件表」というのがあり、「請負に関する契約書」や「売上代金に係る受取書(=領収書)」など20種類の文書が課税対象として指定されていて、契約金額が「1,000万円を超え5,000万円以下のもの ××円」と貼らなければならない印紙の額が記載されています。私たちが普段、領収書や請負契約書に印紙を貼っている理由はこの法律があるからなのですね。
電子契約の場合、印紙不要となる理由
次に、話をもとにもどして、「電子契約の場合、印紙税は不要」とする理由について考えます。実はその理由はこの条文の解釈にあります。「印紙税法第2条のいう課税文書とは書面の文書だけをさし、電子文書は含まれない」と解釈するのです。そうすれば電子契約は書面の文書を作成しない、電子文書の交換により成り立つ契約ですから印紙税はかからないというわけです。確かに、電子文書に印紙を貼ろうとしても、紙ではないので貼りようがないわけで、直感的には正しそうです。
電子文書は課税文書に含まれないという法解釈の根拠
そこで、「印紙税法の課税文書が書面の文書だけをさし、電子文書は含まれない」という解釈の根拠について調べてみます。するとインターネット上にはさまざまな根拠があげられているので、少しむずかしい話になるのですが、重要そうなものを二つほどみていきましょう。
1. 国税庁ホームページ
「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について 」のなかで、請負契約の注文請書を電子メールで送信した場合に、印紙税が課税されない理由として、以下の記述があります。
「注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならない」
これを、前後の文章も含めて説明するとこうなります。「印紙税は課税文書の作成に対して課税されるが、この作成とは交付を含めたものである。注文請書を電子メールやファクシミリで送った場合、現物(=書面)の交付が行われていない。交付がない以上、課税文書は作成されておらず、印紙税は課税されない」
わかりましたか?かなりむずかしいですが、要するに「文書そのものを相手方に渡さなければ、課税文書を作成したことにはならない。」したがって「作成した文書を紙で渡すのではなく、電子ファイルやFAXで送った場合は課税文書を作成したことにはならず、印紙税はかからない」と国税庁が認めていると考えられます。
2. 第162回国会 質問主意書 内閣総理大臣答弁書 その五
2005年国会での「印紙税にか関する質問趣意書」に対する小泉総理大臣(当時)の答弁書です。 その「五について」の部分で、「・・文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されない ・・・」と明快に説明されています。ただし、その後段では、「・・ペーパーレス化と印紙税の問題については、・・・、必要に応じて検討してまいりたい。」と少しぼやかしているようにも見えます。
税務署への確認
いかがですか?「課税文書が書面の文書のみをさし、課税文書は含まれない」という解釈について納得されたでしょうか?
「確かに国税庁や総理大臣がいってるから信頼できるんだろうけど。・・それでもやっぱり心配だな。万一税務調査で指摘されたりしたら・・」 このような心配はもっともです。サービス導入の責任者としては、税法の解釈については慎重であるべきですし、特に電子契約の場合は自社だけではなく取引先も関係してきますからなおさらです。
この問題をどう解決して前にすすむか?・・・実は簡単なのです。「税務署に聞いてみる」ことです。御社の所轄の税務署に足を運んで、「このような内容の電子契約サービスを導入するのですが、印紙は貼らなくてよいのですか?」と聞いてみてください。税務署が「わかりません」とは決していわないはずです。必ず答えてくれます。
実は弊社自身も、又いままで電子契約サービスをご導入いただいたお客様もこの問題にぶつかり、所轄の税務署に足をはこび質問しました。税務署の回答はみな「電子契約の場合、印紙税は不要です。」というものでした。それで安心してスタートできたのです。
いかがですか。ご納得いただけたでしょうか?弊社では、「コンサルティング・サービス」の一貫として、国税への確認支援を行っています。質問文書の作成はもちろん、必要な場合、同行もしています。きちんと税務署に確認し、安心して電子契約をスタートしましょう。
電子契約導入のための20のヒント:目次
1. 法令
- 電子帳簿保存法:電子契約で税務調査に対応できるのか?
- 電子署名法:注文書や注文請書を本当に電子化して大丈夫か?
- 電子署名法:電子署名の証拠力
- 印紙税法:電子契約の場合、本当に印紙税を払わなくてよいのか?
- 下請法:下請法対応に関する注意点
- 建設業法:建設請負契約の電子化について
2. 技術
- 電子署名:電子署名・署名検証の作業イメージは?
- 電子署名:電子署名のしくみとはたらき
- 電子署名:電子証明書を選択する5つのチェックポイント
- 電子署名:長期署名について~10年を超える契約への対応~
- タイムスタンプ:タイムスタンプの効果としくみ
- EDI:電子契約とEDIは何が違うのか?