注文書や注文請書を電子化して本当に大丈夫か? | 電子契約
日鉄ソリューションズ株式会社
斎木康二
監修 宮内・水町IT法律事務所 弁護士 宮内宏
(2021年9月28日更新)
契約書を電子化して本当に大丈夫か?
企業間で物やサービスが売買される場合、かならず「注文書と注文請書」、「見積書と注文書」、「契約書」(ここからは、「注文書と注文請書」や「見積書と注文書」のセットも「契約書」に含めて表記します)などがを取り交わされています。
電子契約を導入するとこの「契約書」が書面から電子ファイルに置きかわるわけですが、本当にかえてしまって大丈夫なのでしょうか?何か問題はないのでしょうか?
この問題を考えるにあたって、まず普段なぜ「契約書」を作成しているのかその目的を考えてみましょう。皆さんもまずは考えてみてください。大きく言って3つの目的があるようです。
契約書作成の3つの目的
- 情報伝達手段として
内容が複雑で、正確性が求められる企業間の取引では、口頭連絡では間違えてしまうことが予想されるので、多くの場合情報伝達の手段として「契約書」を作成します。
- 民事裁判の証拠として
「そんな約束していない」「条件が違う」など、争いが生じた場合に備え、民事裁判を争う証拠として契約書を作成します。この場合、押印や署名の有無は非常におおきな意味を持ちます。
- 税法など各種法令対応のため
税法をはじめとする様々な法令が書面(紙)の契約書の作成や保管を規定しているために、「契約書」の作成・保管が必須になることが多々あります。
では契約書の作成の目的を理解したところで、本題にもどって「『契約書』を書面(紙)から電子ファイルにかえてしまって本当に大丈夫か?」という質問に対して、契約書作成の3つの目的の視点から検討していきましょう。
契約書を書面から電子ファイルにかえて大丈夫か ~3つの検証~
1. 情報伝達(コミュニケーション)の手段として
この点で、電子ファイルのほうが優れていることは、言うまでもありません。例えば、注文書や注文請書を電子ファイルにかえると、まず、注文書や注文請書の元データをもつ購買システムや販売システムから紙にプリントする必要がなくなり、電子ファイルの送ることができます。また、インターネット経由で伝送できるわけですから、封筒への封入や、郵送コストも必要なくなるわけですから、、時間・コスト・正確性の点で書面と比較して圧倒的に有利になります。ただし、誰かが改ざんしても痕跡が残らないなど安全性の視点では検証が必要ですが、これは次の「民事裁判の証拠力について」でみていきましょう。
2. 民事裁判の証拠力について
まず、技術的な話をすると、書面(紙)の契約書は、だれかが書きかえれば大抵その痕跡が残りますし、時間がたてば色合いがかわるなど、様々なてがかりを残します。さらに、押印の印影や署名の筆跡で誰が作成者かをある程度判別できます。このため、押印・署名のなされた書面の契約書は、誰が作成し、作成後改ざんされていないことなどを一定程度証明できるため、民事裁判の有力な証拠となり得ます。
ところが電子ファイルはどうでしょう。電子ファイルは時間がたっても劣化せず、誰かが書きかえてもその痕跡は残りません。またファイル保管日時も、PCの内蔵時計によるものですから改ざんは容易です。ですから、電子ファイルというメディアはそのままでは、裁判の証拠には不向きといわざるを得ません。
そこで登場したのが電子署名とタイムスタンプです。どちらも公開鍵暗号を利用したシステムで、電子署名とタイムスタンプを電子ファイルにつけることにより、その電子ファイルが「署名者本人により作成したこと」、「タイムスタンプの時刻に存在し、その後改変されていないこと」が証明できるようになったのです。つまり、電子ファイルは、電子署名とタイムスタンプの登場によって、民事訴訟の証拠となりうる技術的環境が整ったといえます。
次に法的側面を考えて見ましょう。
結論からいうと、一定の条件を満たす電子署名が付与された電子ファイルの契約書は、押印や署名がなされた書面(紙)の契約書と同等の証拠力をもつことを法が認めています。
むずかしい話になりますが、大切なことなので、その根拠をみていきます。
まず、そもそも、押印された書面の契約書はどうして民事裁判で有力な証拠になるのでしょうか?それは、民事訴訟法228条4項 に「私文書は、本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する」 という規定があり、「文書に本人の押印がある」→「真正な成立の推定」を法が認めたからです。ここで、「真正な成立」とは,「その文書の名義人(作成者とされる人)が,その人の意思で作成した」ということです。たとえば、他人の名前を使って勝手に書いた文書は、真正に成立したとはいえません。本人の署名や押印があれば,その本人の意思で作成されたのだろうと言えますから、このような場合に真正な成立を推定するわけです。
ところで、2001年に施行された電子署名法第3条には、「電磁記録・・は、・・・本人による電子署 名・・・が行われているときは、真正に 成立したものと推定する。 」とあります。電磁記録を電子ファイルと読みかえれば、「電子ファイルに本人の電子署名がある」→「真正な成立の推定」となります。
そうです。「文書に本人の押印がある」場合と「電子ファイルに本人の電子署名がある」場合はともに「真正な成立の推定」をうける点で同等の法的効果をもつわけです。
ということで、技術的にも法的にも「電子署名が付与された電子ファイルの契約書は、押印や署名がなされた書面(紙)の契約書と同等の証拠力をもつ」といえるといってよさそうです。
3. 税法をはじめとする各種法令への対応のため
例えば法人税法施行規則第59条では、取引に関する注文書、契約書などの国税書類について、7年間、納税地で保管することを求めています。また、所得税法、消費税法、下請法、産廃法、など様々な法令が「契約書」の作成・保管について様々な規定が存在します。
これらの法令は、「契約書」は書面(紙)で作成・保管することを前提にしていますので、電子ファイルで作成・保管することは以前は不可能でした。
ところが、取引、契約の電子化を求める世論と、電子署名など様々なテクノロジーの普及を背景に、法令が求める文書を一定の条件の下、電子ファイルに置きかえても良いという法律が次々と制定されました。
例えば、国税関係の帳簿や書類については1998年の電子帳簿保存法制定により、一定の条件のもと電子化することが認められました。
また、2004年に制定されたe-文書法では、書面での文書の作成・保管を求めている商法・税法・労働法に関する251の法律を、電子ファイルでの作成・保管を認めるかたちに実質的に一括改正されました。
もちろん、現在でも法令により書面での作成・保管が求められていて、電子ファイルを認める特例法が制定されていない書面については電子化は不可能なのですが、様々な法令改正の結果、通常の注文書、請書、契約書などについては電子ファイルでの作成・保管が認められるものが大半をしめています。
皆様が「契約書」を電子化する場合、まずその「契約書」に関連する法令を確認し、電子化を認める特例があることを確認することが大切になります。
契約書を電子化しても大丈夫です。ただ、法令の確認が必要です。
さあ、ようやく結論です。「契約書」の電子化については、コミュニケーションの手段としては紙よりすぐれおり、民事裁判の証拠力としては、紙と同等であり、各種法令対応としては、大体OKですが、確認が必要ということになります。
弊社では、お客様による電子帳簿保存法をはじめとるす各種法令への対応を支援するコンサルティングサービスを行っています。しっかり確認して、安心して電子契約の導入をスタートしてください。
電子契約導入のための20のヒント:目次
1. 法令
- 電子帳簿保存法:電子契約で税務調査に対応できるのか?
- 電子署名法:注文書や注文請書を本当に電子化して大丈夫か?
- 電子署名法:電子署名の証拠力
- 印紙税法:電子契約の場合、本当に印紙税を払わなくてよいのか?
- 下請法:下請法対応に関する注意点
- 建設業法:建設請負契約の電子化について
2. 技術
- 電子署名:電子署名・署名検証の作業イメージは?
- 電子署名:電子署名のしくみとはたらき
- 電子署名:電子証明書を選択する5つのチェックポイント
- 電子署名:長期署名について~10年を超える契約への対応~
- タイムスタンプ:タイムスタンプの効果としくみ
- EDI:電子契約とEDIは何が違うのか?
3. 運用
- 導入目的(ROI・購買プロセスの見える化):電子契約による購買プロセスの見える化
- 機能(契約書管理・カスタマイズ):電子契約の導入で契約書管理を劇的に改善
- 機能(契約書管理・カスタマイズ):電子契約導入時に効果的なカスタマイズのご紹介
- 手順(スモールスタート・取引先説明):スモールスタートのすすめ
- 手順(スモールスタート・取引先説明):取引先に参加してもらうにはどう説明すればいい?
電子契約の法的根拠、税務上のメリット
電子契約の法的根拠や電子文書の有効性、さらに法務上のメリットについて 弁護士・税理士より動画で詳しくご紹介します。