企業が健康経営を戦略的に推進するには?効果的な施策を紹介

健康経営とは、企業が従業員の健康管理を経営的視点から考え、戦略・計画的に取り組む経営手法です。「健康経営に取り組みたいものの、何から始めればよいのか分からない」という担当者もいるでしょう。そこで、健康経営を推進するための施策を事例とともに解説します。
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健康経営を推進するための施策
企業が健康経営を具体的に推進するためのステップを確認します。そのうえで、施策をどう実施していくか解説します。
1. 告知と事前の体制づくり
社内外に健康経営を行うことを告知する
健康経営は、企業の経営戦略のひとつであるため、企業全体としての取り組みが求められます。つまり、経営陣の理解が不可欠と言え、事前の告知段階では会社の意志としてトップダウン方式で行うことが有効でしょう。
告知としては、健康経営への取り組みを企業理念に追加・明文化したうえで、社内広報やプレスリリース、株主総会を活用すること等が有効です。また、加入している全国健康保険協会や健康保険組合に「健康企業宣言」を行います。
推進に向けたチームを作る
健康経営の推進に向けて、社内に専任部署や推進担当者を配置することで、従業員にとっても健康経営がより身近な存在となります。担当者に健康経営についての知識が足りない場合は、健康管理研修を実施するといった方法で知識を補う必要があります。
従業員の健康診断結果やストレスチェックの結果を生かすには、専門的な知識が必要です。産業保健師や産業医、健康経営アドバイザーなど、外部スタッフを活用して情報を役立てる体制を整えていきましょう。
2. 施策の事前準備
必ずしも他社の成功事例が自社のニーズに合致するとは言えません。そのため、健康経営を効果的に進めるには、自社の抱える健康課題の洗い出しが必要です。現状の課題を数値的に把握するためには、次のようなデータの収集が必要です。
- 健康診断やストレスチェックの受診率
- ストレスチェックの集団分析の結果
- 有給取得率、残業時間
- 働き方についてのアンケート調査結果
洗い出せる課題例
上記のようなデータの収集を行い、現状の把握と分析から、従業員が抱える健康課題を洗い出します。部署や職位により改善すべき課題が異なることもありますが、例として下のような課題があります。
- 健康診断の受診率が低い
- 高いストレスを感じている従業員が多い部署がある
- 管理職の残業時間が多い
3. 施策の策定と実行
施策の策定と実行
自社の課題が明らかになったら、「従業員の課題」に合致する施策を策定していきます。また、施策を考える際は、取り組みの進捗がわかるように効果を測定する手段と、具体的な数値目標を立てると効果的です。
策定段階では複数の施策案が挙がるため、「どの施策を優先的にどこまで進めるか」と優先順位をつけることも重要と言えるでしょう。なお、従業員の取り組みやすさ、実施の手軽さを考えることもポイントです。
経済産業省公表資料を参考に施策を検討するのもおすすめです。
健康経営優良法人認定事務局が公表している健康経営優良法人2023(大規模法人部門・中小規模法人部門)の認定要件のうち、「制度・施策実行」に関連するのは次の3分類です。
- 従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討
- 健康経営の実践に向けた土台づくり
- 従業員の心と身体の健康づくりに関する具体的対策
上記の3つの項目を参考に、自社の経営課題に応じた施策を検討すると効果的でしょう。
※参照
課題に対しての取り組み例
課題に対しての企業の取り組み例をそれぞれ解説します。
- 健康診断の受診率が低い
健康診断の受診率が低い場合、まずは健康診断について全体周知、さらに個別に健康診断未受診者への声かけをして受診を促します。従業員に対して健康に関する研修や健康イベントを実施することで、従業員の健康への意識が高まります。
-
高いストレスを感じている従業員が多い部署がある
ストレスを感じている従業員が多い部署は、職場環境に問題がある可能性が高いです。職場環境を構成する要素として「人間関係」「作業環境」「仕事の負荷」などが挙げられますので、従業員のストレスの原因となっている職場環境を突き止め、改善していきます。例えば仕事の負荷が従業員のストレスになっている場合、業務量の割り振りの見直しや適材適所の配置ができるような取り組みを行うことで、負荷の軽減を図ります。
- 管理職の残業時間が多い
管理監督者となる管理職は労働時間規制の例外となるため、残業時間が多くなってしまうケースがあります。例えば、マネジメント業に専念できず、プレイヤーとしても業務を抱えてしまう管理職はその傾向が強いでしょう。このような場合、部下に業務を振ることで、管理職自身の業務削減と部下の育成、双方をかなえることが可能です。管理職との面談によってマネジメント業務の重要性を理解してもらうことや、管理職も対象としたノー残業デーを導入し、業務を部下に振りやすい環境を整えることで改善していきます。
また部署全体の業務量が多すぎるケースは、業務を効率化できるシステムやマネジメントツールを導入することで、業務量自体を減らすことを検討します。
4. 検証
結果をもとに、「どれくらい実行されたか」「どのくらいの結果があったのか」の検証を行います。イベントや施策の実施率、参加率を確認し、施策に関しては従業員による評価アンケートを実施して現状の把握や検証を行っていきます。
また、禁煙率や健康診断の受診率などは、数値化して効果を検証していきます。無理な目標を立てて実行した結果、従業員の協力を得られなければ意味がありません。検証をもとに、見直しとフィードバックを継続して、より効果の高い施策としていくことが重要です。
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人事部として取り組むべき施策
次に、人事部として取り組むべき施策について解説します。
オフィス環境の整備
経済産業省では、活発なコミュニケーションや適切な気分転換、清潔を意識するなど、従業員の健康を保持・維持する7つの行動を定義しています。経済産業省「健康経営オフィスレポート」から、オフィス環境において、それらの行動を誘発させる取り組みと期待される効果を紹介します。
食堂で健康メニューを提供
適切な食行動をとることで、生活習慣病の予防・改善が期待されます。
消毒液や石けんなど、トイレタリーの充実
清潔にすることで、感染症・アレルギーの予防・改善が期待されます。
室内環境の緑化
環境に快適性を感じることで、運動器・感覚器障害やメンタルヘルスの不調、心身症などの予防・改善が期待されます。
健康測定ブースの設置
健康意識が高まることで、運動器・感覚器障害やメンタルヘルスの不調、心身症、生活習慣病、感染症・アレルギーの予防・改善が期待されます。
リラクゼーションルームの設置
気分転換ができることで、運動器・感覚器障害やメンタルヘルスの不調、心身症などの予防・改善が期待されます。
社内新聞の発行
自社の経営理念や他部署の業務内容などを理解し、社内のコミュニケーション活発化を促せます。それによって、メンタルヘルスの不調、心身症などの予防・改善が期待されます。
心身の健康状態の可視化
従業員のストレスチェックの実施により、従業員の心身の健康状態を可視化します。結果をもとに集合研修を行ったり、上司とのコミュニケーション時間を確保したり、職場の活性化を図ることでメンタルヘルスの不調を訴える人の減少が期待できるでしょう。
また、産業保健スタッフによる個別面談やエンゲージメントサーベイを活用することで従業員の本音を知り、組織全体の状態を可視化することで課題の発見にもつながります。
エンゲージメントサーベイの必要性や実施時の注意点はこちらの記事でも解説しています。
関連記事:なぜエンゲージメントサーベイが必要なのか?注意点・実施ステップを解説
心理的安全性の高い職場づくり
職場を従業員にとって心理的安全性の高い環境へと整えることも、人事部が取り組むべき施策です。従業員が参加しやすいスポーツイベントなどを実施し、コミュニティづくりの促進に努めます。また、従業員が相談しやすいように社内に産業保健スタッフを置いたり、仕事・健康に対する悩み相談窓口を設置したりすることも効果的です。
これらの施策は、どの程度効果が生じるかは従業員ごとに異なりますし、成果もすぐには見えづらいです。そのため、スタートからすぐに浸透していくことは難しいとも言えます。人事部だけですべて行うのは難しく、他部門との連携が重要となってきます。連携をスムーズに行うためにも、健康経営の理解のもと、経営陣が施策推進の必要性を全社的に告知することが求められると言えるでしょう。
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健康経営推進にはトップダウン型、ボトムアップ型の両方が重要
ビジネス環境を取り巻く激しい変化のなか、事業を継続的に発展させるには企業の健康経営の推進が欠かせません。健康経営を戦略的に行うためには経営陣の理解が必要です。トップダウン型で健康経営を促進させ、しっかりと社内全体に浸透させる必要があります。ただし、企業によって直面している課題が異なるため、推進担当者が中心となって施策の実行および検証と、現場の意見を吸い上げながら進めるボトムアップ型の意思決定も重要です。
健康経営の施策においては、実行後のフィードバックも重要です。フィードバックによって施策の精度を上げていきます。ただし、アンケート調査や産業保健スタッフによる個別面談を充実させたとしても、すべての従業員が悩みを表に出せるわけではありません。誰にも知られず相談でき、解決方法を提示できる 「なやさぽ」を活用してみてはいかがでしょう。